- 2024/04/04 掲載
アングル:凪の為替市場、利下げとトランプが動意付かせるか
[ロンドン 4日 ロイター] - 世界の為替市場は「凪(なぎ)」の状態にあるが、各国中銀の利下げと11月の米大統領選挙が動意付かせるとトレーダーや投資家はみている。
市場関係者が注目するドイツ銀行の通貨インプライド・ボラティリティー(予想変動率)はここ2年で最低で、新型コロナウイルス禍前とあまり変わらない水準にある。
欧州の大手資産運用会社アムンディのグローバルFX部門責任者、アンドレアス・ケーニッヒ氏は、「米国(債券市場)の金利は上がったり下がったりしているが、他の金利もことごとくそれに従ってしまう」と指摘する。
米国債利回りはここ数日、上昇している。これは予想を上回る経済指標を受けて市場が予想する米利下げ時期が後ずれしているためだが、ユーロ圏の債券利回りもほぼこれに追随している。
ケーニッヒ氏は「最初に利下げするのはどこか、どの程度下げるのか、そして米国の選挙が為替のイベントで、大きなマクロのイベントになる」とみる。
実際、中央銀行は徐々に動き出している。スイス国立銀行は3月、現行サイクルにおいて主要中銀で最初に利下げした。米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(英中銀)も年内に利下げすると予想されている。
JPモルガン・プライベートバンクのグローバルFX戦略責任者サミュエル・ジーフ氏は「実質的なボラティリティーにつながるのは、中央銀行間の差が開くことだ」と述べた。ただ、欧州と米国のインフレが同じような動きをしており、今年前半は金融政策の差が顕著になることはないと予想している。
<「もしトラ」>
11月の米大統領選でトランプ前大統領が勝利した場合(もしトラ)の影響は強く意識されている。トランプ氏は昨年、大統領に返り咲けば一律10%の輸入関税を導入する考えを示し、2月には中国製品に60%以上の関税を課す可能性もあると述べた。
バークレイズのグローバルFX戦略責任者テモス・フィオタキス氏は「関税、追加関税はドル高を意味する」と述べ、ユーロや人民元が下げるとの見方を示した。
バークレイズでは、トランプ氏が大統領選で勝利した場合、追加関税を背景にドルが3%上昇し、ユーロは対ドルで等価まで下げる可能性があると予想する。
現在、世論調査でトランプ氏とバイデン大統領の支持は拮抗している。11月の選挙に向けて世論調査の結果に変化が見られれば為替市場でボラティリティーが高まる可能性がある。
BNPパリバのFXボラティリティー・ストラテジスト、オリバー・ブレナン氏によると、通貨オプションはメキシコペソ、ポーランドズロチ、人民元の変動に備えていることを示唆する。これら3通貨はトランプ氏が勝利した2016年の大統領選後に急落した。「(3通貨の)9カ月─1年のレンジのボラティリティーはかなり高い。どの通貨も11月の選挙前後は変動するだろうが、この3通貨は特に振れが大きいとみられている」と述べた。
<取引に値せず>
ボラティリティーが低い今は取引の機会が限られる。
キャンドリアムのシニアポートフォリオマネジャー、ジェイミー・ニーブン氏は「現在のリスクを見ると、通貨への投資は長期平均を大幅に下回っている」と語る。
野村証券のG10FXストラテジスト、宮入祐輔氏によると、ユーロ/ポンドのボラティリティーは06年以来最低で、取引する価値がないという。
こうした中、投資家は何とか実のある取引をしようとしている。
カルミニャックの債券部門共同責任者、ギヨーム・リゲード氏は「ボラティリティーが低ければ、キャリートレード戦略は特に魅力的だ」と述べた。また、株式や債券ポートフォリオをヘッジするコストも安くなるという。
JPモルガンのジーフ氏は、もっと悪い時代もあったとし、「少なくとも、低ボラティリティーでありながらキャリートレードができる。低金利で低ボラティリティーというのはもっと悪い」と述べた。
ただ、金利の動きがボラティリティーを押し上げ始めている兆候もある。
日銀は3月に17年ぶりの利上げを決めたが、市場では金利がなおゼロ%近くであることが意識され、円相場は1990年以来の安値近くまで急落した。
ストラテジストは、円安で人民元を含むアジア通貨が不安定にしており、特定通貨の変動がいかに市場全体に波及するかを示すと指摘する。
日本政府・日銀が市場に直接介入すれば、新たな衝撃を与える可能性がある。
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