- 2024/02/01 掲載
アングル:米地銀不安、国内銀行株に連想売り呼ぶ 人気に冷水
[東京 1日 ロイター] - 米地銀の健全性を巡る懸念が東京市場にも飛び火した。右肩上がりで上昇してきた国内の銀行株はこの日、セクター別の下落率で一時トップになるなど、連想売りに押される場面があった。
日銀の金融政策の正常化への思惑や高配当株の一角として銀行セクターは幅広く人気を集めてきた側面があるが、目先は買いにくさも意識されそうだ。
前日の米国市場では、ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ(NYCB)が減配と予想外の損失を計上して株価が38%急落し、他の地銀株も下落した。
市場参加者の脳裏をよぎったのは、昨年3月にシリコンバレー銀行(SVB)に取り付け騒動が起きた際の銀行株安だ。米KBW地方銀行株指数は6%下落し、SVB懸念以来の大幅下落になった。
当時の国内銀行株は、SVB懸念の発生から1週間でTOPIXが5%下落したのに対し銀行株は15%安と落ち込みが目立った。前の年の12月に日銀がイールド・カーブ・コントロール(YCC)の修正に動いて以降、政策正常化への思惑から買われていたが、冷水を浴びせられる格好となった。
その後も戻りは鈍く、TOPIXが5月初めに元の水準を取り戻したのに対し、銀行株は、着任直後だった日銀の植田和男総裁による早期政策修正への思惑が後退したことも重なって、元の水準を回復したのは6月後半だった。
日本の金融機関への影響は限定的とみられていたが「(影響は限定的と)確認するまで、万が一が警戒された」(国内証券のストラテジスト)という。
<影響限定の見方、FRB議長の言及なく>
SVBのケースのように不安が広がらないか、市場の一部では警戒感がくすぶる一方、過度な懸念は必要ないとの見方もある。
国内銀行セクターは、米長期金利の低下も重なり、朝方に売りが強まった後、徐々に押し目買いで戻した。危機が深刻であれば、日本時間のきょう未明に会見した米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が火消しに動いたはずだとの指摘も聞かれた。
NYCBは商業用不動産向けで多額の貸倒引当金繰入額を計上したことが響いた。米国の商業用不動産市場は、オフィスの空室が長引く中で圧迫されており、金融市場では融資焦げ付きへの警戒感がくすぶっている。
あおぞら銀行が1日、業績予想を下方修正したことも「市場の一部で連想を招いた面がある」(国内証券のアナリスト)という。米国オフィス向け不動産融資での追加引き当て実施や、外国債券などの有価証券について売却処理を進め、損失を計上することが背景とされたためだ。
一方、「国内の地銀の多くが米商業不動産向け融資をしているわけではなく、全体への広がりは軽微ではないか」(松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリスト)との声もある。
<高配当株の前提に懸念も>
むしろ、あおぞら銀の見通し修正では減配の側面が材料視された。第3・四半期と期末配当予想を無配にすると発表したことで、株価は失望売りが優勢となり、ストップ安をつけた。
銀行株は、日銀による早期政策正常化への思惑に加え、高配当銘柄の一角として人気化してきた。とりわけ今年は、新NISAが開始されて個人投資家のマネーが高配当株に流入するとの思惑が株価の上昇を増幅していた。
岩井コスモ証券の有沢正一投資調査部部長は「投資家からすれば、どれだけ業績が悪くても配当さえ維持してくれれば良いが、無配となると売らざるを得ない」と話す。
「きょうの値動きを見る限り、個別の事情との受け止めの方が多いようだ」(水戸証券の酒井一チーフファンドマネージャー)という。ただ、警戒感はくすぶりそうだ。「決算シーズンを経て安心できるまで、目先は買いにくさが1─2週間、続くかもしれない」(松井の窪田氏)との見方が出ている。
(平田紀之 取材協力:浜田寛子 編集:橋本浩)
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