• 2024/02/01 掲載

焦点:CA出身のJAL新社長、経営破綻が異例の人事に道筋

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Maki Shiraki Anton Bridge

[東京 1日 ロイター] - 客室乗務員(CA)だった女性が社長に上り詰める日本航空(JAL)の異例の人事は、同社が経営破綻した14年前に種がまかれていたのかもしれない。同社の鳥取三津子代表取締役(59)は4月に社長に昇格し、豪カンタス航空、仏エールフランス航空、蘭KLMオランダ航空の最高経営責任者(CEO)と並び、世界的な航空会社を率いる数少ない女性の1人となる。

現場たたき上げの女性が社長にまで昇進した例は、男女間の賃金格差が主要7カ国(G7)の中で最も大きく男性優位が続く日本の企業では、あまり多くない。鳥取氏が次期社長に選ばれたのは、日本が変わりつつあることを示唆していると同時に、2010年の経営破綻から故・稲盛和夫氏の下で再生を果たしたJALの組織的な変化を象徴している。

京セラと第二電電(現KDDI)を創業し、22年に他界した稲盛氏は「経営の神様」と呼ばれ、経営と現場が価値観を共有することを重視した。JAL破綻後初の社長に指名したのは整備出身の大西賢氏。その後任は元操縦士の植木義晴氏、整備出身の赤坂祐二・現社長で、元CAの鳥取氏と続く。4人に共通するのは「現場」の人間だったということだ。

もともと半官半民のJALは、完全民営化後も官僚主義がはびこり、採算度外視で日本各地の空港へ路線を開設。高コストな企業体質にリーマン・ショックなどが追い打ちをかけ、経営が行き詰まった。

当時の民主党政権からJAL再生のかじ取りを委ねられた稲盛氏は会長着任直後の会見で、「『親方日の丸』で大変官僚的な仕事の仕方をしてきたようだ。ビジネスを展開するには損益計算に関心を持つ組織になる必要がある」と語った。

「JALをつぶしたのは歴代の経営企画系出身トップと考えている社員は多い」と関係者は話す。現取締役会長の植木氏も、今回の人事で「経営企画系の出身者に(トップを)戻したくないという思いがあった」。

JALはロイターの取材にコメントを控えた。  <「お飾り」を変える>

鳥取氏が就職したのは、男女雇用機会均等法が制定された1985年。日本でも女性の社会進出は徐々に進み、2015年に東証がコーポレートガバナンスコードを制定して女性役員も増え始めたが、「ガラスの天井」は今なお存在する。厚生労働省によると、10人以上の規模の企業で課長級以上の管理職に占める女性の割合は22年に12.7%。11年から2.5ポイントしか上昇していない。

日本の大手企業で出世するのは四年制の有名大学を出た男性で、新卒採用された生え抜き社員がこれまで一般的だった。JALは歴代社長13人全員が男性で四大卒(院卒も含む)、9人が東大を出ている。

鳥取氏はいずれの条件にも当てはまらない。地方の短大を卒業し、東亜国内航空でCA職に就いた。同社は3年後に日本エアシステム(JAS)へ社名変更し、04年にJALに吸収合併された。

日本ではいまだに女性トップを「お飾り」、つまり男女間の不均衡を解消するためだけに据えられたと見る向きが多い、と専修大学経営学部の根本宮美子教授は指摘する。鳥取氏の昇格はそうした見方を変え、「社内でスキルと経験を積み重ねることで現在の地位を獲得した」というメッセージを送ることができる、と同教授は語る。

鳥取氏はJAL破綻から3年後の13年、安全推進本部統括マネジャーに就く。そのころには社内に稲盛流の考え方が浸透し、経費削減やサービス向上について各部署が知恵を出し合う会議が開かれるようになっていた。

鳥取氏の社長抜擢は「JALに根づいた稲盛氏の『現場主義』や『エリート嫌い』の表れ」と複数の関係者は口を揃える。稲盛氏は幹部のエリート意識が会社の一体感を阻む元凶と見ていたという。

JAS時代から鳥取氏を知る関係者は、彼女はおとなしそうに見えるが「芯はしっかりしている。真面目で後輩からも慕われている。会議ではいろいろ発言もする」と評する。

<経営手腕は未知数>

1月2日に羽田空港で起きたJAL機と海上保安庁機との衝突事故では、乗客乗員379人全員が炎に包まれた機体から18分間で緊急脱出した。全員の命を救った鍵は、CAの冷静な判断と臨機応変な対応、乗客が脱出時に誰も手荷物を持たなかったことだった。

「奇跡」とも報じられた今回の脱出成功は、社内的には日頃の訓練の賜物であり、16年2月に北海道の新千歳空港で起きた事故からの教訓もあったとみている。

新千歳の事故は地上走行中に右エンジンから発煙し、乗客乗員165人が緊急脱出。その際に乗客3人が負傷、うち1人は胸椎を圧迫骨折した。一部の乗客が乗員の指示に従わず、手荷物を持って脱出しようとしたのが原因で、その後JALは緊急脱出研修などを実施。19年に客室安全推進部部長となった鳥取氏は、機内安全ビデオをより真剣な内容に変更した。

20年からは執行役員・客室本部長として、新型コロナウイルス大流行でフライトが激減したCAの出向を推進した。海外の航空会社では多くの従業員が解雇されたが、JALは雇用を維持しながらスキルも磨けるようCAを1日当たり最大約1800人、官庁や異業種企業など約170の団体へ送った。鳥取氏はCAの自主性を重んじて自ら手を挙げてもらい、出向先も主体的に選ばせた。さまざまな職場を経験してもらうことで新たな知見も吸収し、フライト復帰後は安全・サービス品質の向上につなげた。

航空会社の根幹である「安全とサービス」一筋のキャリアが評価された鳥取氏だが、ある関係者によれば、鳥取氏自身、幅広い業務に携わってこなかったことを少し懸念しているようだ。これまでの経験はもちろんプラスだが、「客室・安全以外の分野の経験は不足しているという問題意識があるのだと思う」と、同関係者は話す。

JALの目下の課題は収益力。コロナ禍前はANAホールディングスを上回っていた営業利益率が23年3月期は逆転された。旅客需要が無くなったコロナ下では貨物事業がANAの業績を支えたが、JALは経営再建で同事業を縮小していた。回復してきた訪日客の需要獲得に向け、ANAは高単価な国際線でも攻勢をかけ始めている。また、JALは関連子会社が国土交通省から「業務改善勧告」を受けた整備の立て直しも急がれる。

「鳥取氏の経営手腕は未知数」との見方が関係者の間では大勢だ。ある関係者は、会長となる赤坂社長は理論的で厳しく、鳥取さんは穏やかで周りに気配りするタイプで、「北風と太陽、二人三脚のようなイメージで経営は進むのではないか」と話す。

(白木真紀、Anton Bridge 編集:David Dolan、久保信博)

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