- 2024/01/31 掲載
アングル:中国の過剰生産、欧米との貿易紛争刺激 国内改革も進まず
[北京/フランクフルト 29日 ロイター] - スイスのソーラーパネルメーカー、マイヤー・バーガーは、中国メーカーとのし烈な競争にさらされている。赤字のドイツ工場は、ドイツ政府の財政支援がなければ閉鎖もあり得るという。
グンター・エルフルト最高経営責任者(CEO)は「中国メーカーは欧州で、意図的に生産コストをはるかに下回る価格で販売している」と指摘。「中国の太陽電池業界がそんなことができるのは、何年も前から戦略的に数千億ドルもの補助金を受けてきたからだ」と憤まんを隠さない。
西側諸国と中国は、米国がトランプ政権下の2018年に発動した対中制裁関税を契機に貿易戦争を繰り広げている。欧州連合(EU)には、過剰生産能力を抱える中国が安価な製品をあふれさせていることへの懸念が台頭。新たな「戦線」が開かれた。
欧州委員会も生産重視、債務主導の中国の発展モデルが世界に及ぼす影響に対抗すべく、保護主義的な通商政策へと傾いている。
中国当局者は昨年1年間、インフラや不動産を重視する成長モデルから内需主導型成長モデルに移行する方針を示し続けてきた。しかし、実際には不動産を離れた金融資源が向かった先は、家計ではなく製造業だった。その結果、過剰生産能力への懸念が高まり、工場出荷段階のデフレを深化させた。
世界貿易機関(WTO)の元代表で、現在は中欧国際工商学院の教授を務めるパスカル・ラミー氏は、中国の今の路線は貿易摩擦の激化を引き起こし、持続不可能だと警告。「これは構造的な問題であり、中国の生産システムの一部が市場原理ではなく、中国共産党主導の投資によってもたらされているという事実に起因している」と述べた。
中国の貿易相手国は反撃に出ている。
米政府は中国に貿易関税を課し、高性能半導体の輸出を停止して技術的・軍事的進歩を遅らせようとしているほか、国内のインフラ投資や産業投資の強化に動いている。
EUはグリーン転換に必要な素材や製品の中国への依存度を下げようとしている。これに対して中国は、EU産のブランデーが不当に安い価格で販売されている疑いがあるとして、反ダンピング(不当廉売)調査を行っている。
インドは中国自動車メーカーのプロジェクトに待ったをかけるなど中国からの投資を抑制し、昨年9月には中国製鉄鋼の一部に反ダンピング関税を課した。
カーネギー・チャイナのマイケル・ペティス上級研究員は、中国が現在の経済構造を維持したまま今後10年間に年4─5%の成長を遂げた場合、世界投資におけるシェアが33%から38%に上昇し、世界の製造業におけるシェアも31%から36─39%に高まると予測。これに伴って他の主要国は、両項目でシェアが低下すると見込んでいる。
さらに、中国は既に高水準の投資をあと10年維持するために借り入れを一層増やす必要があり、国内総生産(GDP)に対する総債務の比率は、現在の約300%から450─500%に上昇するはずだとペティス氏は試算。「経済がこのような大幅な債務の増加に耐えられるとは考えにくい」と言う。
<連鎖の拡大>
中国経済の構造転換が、ある面で景気回復の足踏みによって阻まれているのは間違いない。資源を家計に回せば、短期的にはさらに痛みが強くなるからだ。
だが、オックスフォード大学中国センターのリサーチアソシエイト、ジョージ・マグナス氏は、中国が国内消費を増やせないということは、他国による輸入拡大に頼っていることの裏返しだとみている。
エコノミストの間からは中国の製造部門への資源再配分について、単に大量の商品を販売することよりも、輸出をバリューチェーンの上位に移動させることを主な目的としているとの見方も出ている。
北京大学のシア・キンジェ教授(経済学)は、欧米が自国経済を再工業化しようとすれば、人件費や資本コストが高くつくため「長い時間がかかる」と指摘。競争の激化は止められず「西側諸国が中国の技術的な進歩を制限することはできない」と述べた。
ケンブリッジ大学のウィリアム・ハースト教授(中国開発論)は、中国がこの点で正しい政策を選択したかどうかを疑問視している。
ハースト氏によると、中国は航空、バイオテクノロジー、人工知能などの分野を発展させようと努めているが、これらの産業で技術的限界を押し広げることにも、雇用を増やすことにも十分に成功していない。
こうした課題で「成功を収められなければ負債が増え、経済にゆがみが生じるだけだが、もし、成功すれば、さらに過剰生産能力を抱える可能性がある」と言う。
ハースト氏は「だから中国経済が突然、国際競争力を高めるような素晴らしい転換を遂げるとは思えない」と述べ、中国の道のりの厳しさを指摘した。
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