• 2024/01/22 掲載

焦点:欧州で賃上げ加速の流れ、ECBのインフレ抑制努力に水差す恐れも

ロイター

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Francesco Canepa

[フランクフルト 18日 ロイター] - 欧州の労働者は今年の賃上げで、物価高騰のために目減りした所得を回復できると期待している。しかし大幅な賃金上昇は、欧州中央銀行(ECB)によるインフレ抑制の取り組みの足を引っ張りかねない。

ECBが、過去1年半にわたるインフレとの戦いにおける最大のリスクとして名指ししているのは賃金だ。予想するユーロ圏の今年の賃上げ率は4.6%と、2%の物価上昇率目標と整合的だとECBがみなす3%よりずっと高い。

金融市場はECBが4月にも利下げを開始すると見込んでいるが、賃上げ率が加速すればその雲行きは怪しくなる。

アイルランド中央銀行のエコノミスト、リーモン・リドン氏はインタビューで「われわれは3%(の賃上げ率)という経路を想定しているとはいえ、曲折をたどることになる」と警戒感をにじませた。

賃上げは企業のコストを増大させ、家計所得を増やす。いずれも物価を押し上げ、ECBに高水準の政策金利維持を迫る可能性がある要素だ。

米国と違ってユーロ圏全体の賃金動向をリアルタイムで把握するデータは存在しない。ただインディードが同社の求人サイトに掲載される給与に基づいて算出している「賃金トラッカー」は、今後のトレンドを占う指標としてECBが注視している。その賃金トラッカーが示した2023年12月の賃上げ率は3.8%で、インフレがピークに達した22年10月の5.2%は大きく下回るものの、11月の3.7%からは切り上がった。

リドン氏とインディードのパウェル・アドルジャン氏は、12月の上振れは恐らく新たな賃金交渉妥結が主導したもので、足元でさらに幾つかの交渉がまとまり、最低賃金の引き上げも始まるので、こうした流れは今年序盤も継続するとの見方をしている。

<強気の労組>

個別の賃上げ率の妥結状況を見ると、例えばイケアは4.5%、フランスのトタルエナジーズは5.0%、オランダの鉄道労働者は6.6%などとなった。

最低賃金はドイツで3.4%、オランダで3.8%、スペインでは5.0%引き上げられる。

マックスプランク社会科学研究所のマルティン・ヘプナー教授は「全ての材料は実質賃金が再び伸びることを指し示している」と述べた。

人手不足状態はようやく多少和らぎ始めた程度で、労組側は強気姿勢。フランス電力(EDF)の従業員は6%の賃上げを要求し、受け入れなければストライキを行う構えだ。ドイツの一部の鉄道労働者は、勤務時間短縮を希望しているとの理由で、段階的な11%の賃上げを拒絶した。

スペインではアマゾン・ドット・コムの一部従業員が、かき入れ時の年末商戦期間にストを実施。スウェーデンではテスラが、従業員による労働協約の調印要求を拒否したため、北欧諸国で業界の垣根を越えた大規模ストが起きた。

足元の経済環境が労組の交渉力を強めているのは間違いないとの声も聞かれる。

しかしマックスプランク社会科学研究所のルシオ・バッカロ教授は、あまりにも戦闘的な賃上げ要求は、ECBが政策金利をより高い水準にとどめ続け、需要を冷やす原因になるので、かえって労働者のためにならないと警告する。

バッカロ氏は「賃金と物価の上昇スパイラルが発生するか、ECBがそれを心配するようになれば、経済の過熱を抑えるための政策対応がなされる」と指摘した。

そうした中でバッカロ氏が提唱するのは、より小幅だが課税されない一時的な賃金の引き上げ。ドイツが導入したこの仕組みは年末に期限を迎える。

ECB理事会メンバーでポルトガル中銀総裁のマリオ・センテノ氏の分析では、今のところ賃金と物価が連鎖的に上昇する兆しはほとんど見えない。

また大半のエコノミストは、今回の賃上げに際して企業はそのコストを消費者に転嫁しないと予想している。これは欧州経済の先行きがさえないからであるのは言うまでもない。

ゲント大学のマティアス・ベルメイレン教授は「利上げもあって、現在の総需要が22―23年より低調な点を踏まえれば、企業は進んで賃上げコストを吸収し、売上高を拡大しようとするかもしれない」と語った。

ただ直近で妥結された賃上げ率を見た投資家の間では、今後賃金上昇が加速するとの確信が強まっている。保護貿易主義の台頭で企業が安価な労働力を手に入れる余地が縮小しているだけに、こうした流れは物価高と金利上昇につながる。

ジャナス・ヘンダーソンの欧州株ポートフォリオマネジャー、トム・オハラ氏は「労働分配率が再び高まってきている。労働関連の要素と脱グローバル化は、インフレが根強く残り金利がゼロには戻らないとわれわれが考える最も強力な根拠だ」と説明した。

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