- 2023/09/06 掲載
アングル:海外勢の日本株買い復活か、日米で「適温」の思惑
[東京 6日 ロイター] - 日本株が予想外に強い。米経済のソフトランディング(軟着陸)や国内のデフレ脱却への期待が高まっており、海外投資家が日本にも資金を投入しつつある、との見方が出ている。金融環境面でも、米国だけでなく、日銀の政策修正にはなお距離があるとして、株価にとって「適温」の環境となる可能性が意識されている。
「9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)をみないと株高の確信は持てないと思っていたが、海外勢による日本株買いの第2弾は前倒しになりつつある」と、いちよしアセットマネジメントの秋野充成取締役は指摘する。背景の一つは、米経済の軟着陸期待の高まりだ。
前週末に発表された8月米雇用統計は、非農業部門雇用者数が予想以上に増加したが、6─7月分が下方改定された。一方、米供給管理協会(ISM)による8月の製造業景気指数は市場予想を上回り、製造業が低水準ながら安定的に推移していることが示唆された。
「米利上げ打ち止めの観測が急速に高まっている。金利上昇が止まり、景気は底堅いとなれば、株価には良いコンディションになる」(秋野氏)とみられている。ゴールドマン・サックスは5日、今後1年以内に米国の景気後退(リセッション)が始まる確率を従来の20%から15%に引き下げた。
JPモルガン証券の高田将成クオンツ・ストラテジストは、日本株の売買注文などから「直近1週間で改めて海外勢の買いが復調していることがうかがえる」と分析する。
足元では原油高となる中で米欧市場で金利が上昇し、債券安(金利は上昇)と株安のリスクを考慮した分散投資先として日本株が買われている側面もあるという。6日の東京市場では、前日の米国株が下落する中で日本株は上昇した。
「短期の順張り勢(CTA、商品投資顧問業者)は、ロングポジションの再拡大を試しているようだ」と、高田氏はみている。
<デフレ脱却の思惑も後押し>
一方、同じく前週末に発表された日本の国内総生産(GDP)のGDPギャップは、15四半期ぶりにプラスとなり、デフレ脱却への市場の思惑を強めている。
為替の円安や原油高で輸入物価が上がっているほか、労働コストも上がる中で「日本企業は、もう一段の値上げが必要だろう。足元では値上げに対する企業の恐怖心が薄れており、値上げ継続となれば株価の評価も引き上がる余地がありそうだ」と、三木証券の北沢淳商品部投資情報グループ次長は話す。
インフレ時にはバリュー株が選好されやすく、大型バリューの性質があるTOPIXはバブル後高値を連日更新している。米景気の軟着陸の思惑からは鉄鋼や輸送用機器といった景気敏感株、日銀修正の思惑からは金融株がそれぞれ物色されやすい。脱デフレの思惑は不動産など内需株を支援している。
4─6月の日本株高の局面では、半導体関連などAI(人工知能)に関連した銘柄の上げが目立ったが、足元の物色は分散してきており「業績面や割安感をしっかりみた資金の流入がありそうだ」と、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャーはみている。
昨年12月の日銀政策修正時には、金融株以外は総じて軟調となったが、実際の政策修正は、来年の賃上げ基調を確認してからとの見方が市場では大勢で、まだ距離があるとみられている。「当時と異なり、政策修正の際に賃上げの基調が明確となっているのであれば、株価への影響は限定的だろう」(しんきんAMの藤原氏)との見方もある。
<楽観シナリオ反転のリスクも>
もっとも「楽観」シナリオが反転するリスクもくすぶっている。9月FOMCに向けて利上げ懸念がぶり返したり、米経済のリセッション入りが意識されることへの警戒感はなお根強い。
輸入物価の上昇は、本質的には日本経済にネガティブだ。円安や原油高が加速する場合、「賃上げが伴わなければ、値上げに消費者がついてこられなくなるリスクがある」(三木証券の北沢氏)との警戒感もあり、目配りは重要になる。7月の家計調査では、2人以上世帯の実質消費支出は前年同月比マイナス5.0%で、5カ月連続で減少した。
バリュー株は高配当銘柄が多く、9月の配当取りの動きが相場押し上げに寄与した側面があるが「月末までまだ日数があり、配当取りねらいで買った個人投資家の利益確定売りがいったん強まる局面があってもおかしくない」(証券ジャパンの野坂晃一調査情報部副部長)との見方もある。
(平田紀之 編集:橋本浩)
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