- 2023/09/06 掲載
焦点:楽観できない個人消費、政府の経済対策「知恵出し合い」
[東京 6日 ロイター] - 長引く物価高で消費者の節約志向が鮮明になっている。賃上げの機運が出ているとはいえ、年度後半にかけて食料品をはじめとする身近な商品の値上げが続く可能性があり、個人消費は下振れリスクを抱える。政府は経済対策を策定するうえでこうした事情も勘案することになりそうだ。低所得者への支援には別途、対応が必要との声も政府内で出ている。
ある政府関係者は「電気代もそうかもしれないが、国民が対策の効果を実感できるのは、やはり食べ物のところ。何かいいアイデアがあれば是非やりたい。経済対策の中で知恵を出し合ってやっていきたい」と語る。
ただ、食料品の価格高騰対策について「幅広くできるものは少ない」(政府高官)との声も漏れる。現行の総合経済対策でも輸入小麦の価格抑制や、肥料・飼料の価格対策などに取り組んできたが、食品価格を劇的に下げるような効果的な手段があるわけではないと認める。「だからこそ手をつけられるエネルギーについて手を打ったということだと思う」(同)。
岸田文雄首相は1日、記者団に対して「物価高から国民生活を守り、構造的な賃上げと投資の拡大を図るための経済対策について検討を加速したい」と述べており、政府は今月中のとりまとめを急ぐ。
<企業の価格設定行動に変化>
もっとも、企業の価格設定行動の変化自体は政府内で前向きにとらえられている。ある経済官庁幹部は、デフレ経済の中で長らく値上げを我慢してきたメーカーがようやく重い腰を上げたと指摘。「企業には、良いものには適正な価格をつけてしっかり利益を上げてください、というのが我々のスタンス」と話す。
問題なのは、物価高に賃金の上昇が追いついていないことだ。低所得者層や年金生活者など消費性向の高い人たちにとって、食料品の一段の値上がりは家計に痛手となる。
前出の経済官庁幹部も「物価高の影響の出方は全くイーブンではない」とし、所得階層や世帯の属性ごとで影響に濃淡があるところには気を配る必要があると指摘する。その上で、新たな総合経済対策について「所得の低い人たちには別のかたちで支援が必要ではないか」と話す。
<「強制貯蓄」は中・高所得者層に>
みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「コロナ禍での勝ち組は明確で、もともと資産を持っていた人と、リモートワークできた人たち。一方、対面型サービス業などでリモートワークできなかった人や、大企業に勤めておらず賃金上昇の恩恵が薄い人たちは余裕がなくなった」と話す。
日銀は21年4月に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、感染症の影響によって本来の消費機会を逃し半ば強制的に貯蓄される「強制貯蓄」は、主に中・高所得者層に発生しやすいと分析。
世帯年収別の貯蓄額と世帯数の分布から試算すると、「強制貯蓄」の半分以上が年収600万円以上の世帯に起因しているとし、相対的に低所得者層は貯蓄がたまりづらい構図であることを示唆していた。
総務省が5日発表した7月の家計調査によると、2人以上の世帯の実質消費支出は前年同月比5.0%減と、2021年2月(6.5%減)以来の下落率となった。食料品など物価高に伴う買い控えの動きが影響したとみられる。
<正念場>
内閣府が先月15日に発表した4─6月期の実質国内総生産(GDP)1次速報では、個人消費が前期比0.5%減と3四半期ぶりにマイナスに転じた。
7─9月期については春闘の結果が本格的に所得に反映され、消費マインドが上向く要素がある一方、大型台風や歴史的な猛暑などの影響もあり、「楽観はできない」(前出の経済官庁幹部)との声もある。10─12月期も最低賃金の引き上げによるパートタイマーなどの時給アップに期待がかかるが、消費が力強さを取り戻すかは不透明だ。
前出の政府高官は「コロナを乗り越えるという意味では成功しつつあるが、4─6月期GDPも中身を精査するとそれほど強くない。そういう意味で正念場。成長ステージに引き上げていくにはもう一段努力が必要」と語る。
<23年の食品値上げ、3万品目に到達へ>
帝国データバンクが先月末にまとめた食品主要195社の価格改定動向調査によると、家庭用を中心とした飲食料品のうち、9月に値上げする品目は2067品目となり、8月の1102品目から増加。10月は日本酒やワインなど酒類を中心に4000品目を超える見通しで、2023年に値上げされる品目はこの時点で累計3万品目に到達するという。
同社の飯島大介氏によると、食品メーカーでも値上げ後に売れ行きが伸び悩むケースが出てきており、値上げ機運に後退の気配もみられるという。ただ、物流費や包装資材などでコスト増が続くことや、ドル/円が140円台の水準が長期化していることなどを踏まえると「24年以降に値上げが持ち越される可能性もある」とみる。
<「トレードダウン」>
物価高が家計を圧迫する中、様々なデータが消費者の節約志向を裏付けている。POSデータを活用したSRI一橋大学消費者購買指数で業態別の動向をみると、8月21日─27日分はスーパーマーケットの価格指数が前年同週比9.7%、商品入替効果指数が同6.3%それぞれ上昇した一方、数量指数が同6.5%低下した。
みずほ証券の小林氏は、「スーパーが高付加価値品に商品を入れ替える一方、消費者にはディスカウントストアなどへの移行や、より安いものを選ぼうとする『トレードダウン』の動きが出ている。これは明確に値上げ疲れの症状」と解説する。
企業の売り上げも低単価志向の強まりが意識される内容がみられる。製パン業界最大手の山崎製パンは2023年1─6月期、食パン1斤当たりの店頭価格が100─150円となる低価格帯商品や150円前後の「スイートブレッド」のカテゴリが前年同期比で21.5%増と大きく伸びた。
食肉大手の伊藤ハム米久ホールディングスは昨年9月、原料肉に鶏肉と豚肉を使用した「シルクウインナー」を投入。豚肉を主原料とした商品に比べて3割程度安いことなどもあり、同社の広報担当者によると今年8月の販売量は発売時の昨年10月に比べて2.6倍まで拡大したという。
(杉山健太郎 編集:橋本浩)
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