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天然ガスなど燃料価格の高騰によって、電力の小売りを行う事業者(いわゆる「新電力」)の撤退が相次いでいる。今の電気料金の水準では、採算が合わないのは明らかだが、原油や天然ガスの価格が今後、確実に下がるという保証はなく、大手電力会社も料金引き上げの上限に達し始めている。長期にわたって資源価格が上昇することを視野に入れたエネルギー政策の再構築が必要である。
電力会社の独占は戦時体制の名残
戦後の日本では、大手電力会社10社が各地域で独占的に電力事業を行ってきた。電力事業には発電、送配電、小売りという3つの部門があるが、地域独占体制においては、これらの3部門を地域の電力会社が一括提供する。こうした体制は、戦時中に電力事業を国営化したことの名残であり、総括原価方式(必要なコストに一定の利益を上乗せして電力を販売するやり方。この方式であれば価格は言い値になるため、確実に利益を確保できる)を認める代わりに、電力会社に対して明確な供給義務を課すという仕組みだった。
地域電力会社は独占事業なので消費者は電力会社を選ぶことができない。電力会社にとってみれば競争が存在しないので、確実に利益を確保できる。戦後の電力政策というのは、国民が割高な電気料金を受け入れる代わりに、確実な電力供給を求めるとの考え方で進められてきたと判断して良いだろう。
国家が運営に関与する独占企業というのは、安定供給に大きな効果を発揮するが、それがもたらす弊害も大きい。旧ソ連や中国などの社会主義国や市場が未成熟な新興国には、こうした独占的な事業形態が数多く見られるが、豊かな先進国の場合、ある程度、市場原理に任せた運営が行われることが多い。90年代に入って日本国内でも電力事業の非効率性が指摘されるようになり、2000年から順次、自由化が進められ、2016年4月からは小売の完全自由化がスタートした。
自由化後は、発電事業者と小売事業者との間で個別に電力供給契約を結ぶ(相対取引)ことになったが、電力の卸売市場が創設されたことから、卸売市場で電力を調達する小売事業者も増えてきた。今回、事業からの撤退が相次いでいるのは、卸売市場の価格が異常に高騰し、小売事業者の採算が極度に悪化したことが原因である。
ウクライナ問題などで電力の卸売価格が高騰
電力会社によって料金は異なるものの、現在、標準的な世帯では1キロワット時あたり25~30円程度の電気料金を支払っている。小売事業者は発電事業者や卸売市場から電力を仕入れているので、販売価格よりも仕入れ価格が高くなれば、赤字に転落してしまう。
2021年前半における電力卸売市場の価格は1キロワット時あたり6~8円で推移しており、消費者に販売する料金との差分は十分確保されていた。ところが同年10月以降、原油価格や天然ガス価格が大幅に上昇したことから、卸売価格が急騰。10円を超える取引が続き、2022年の年初には20円前後まで上昇した。その後、価格の上下変動が激しくなり、一時は60円を超える場面も出るなど、小売事業者の販売価格を大きく上回るケースも増えてきた。
仕入れ価格の上昇で損失が出た分については、小売事業者の負担となるため、事業者によっては経営を維持できないところが出てくる。すでに多くの新電力事業者が撤退を表明しており、14社は倒産に追い込まれた(帝国データバンク調べ)。経済産業省は経営が苦しい新電力事業者に対し、資金繰り支援などを行うとしているが、エネルギー価格の高騰が継続した場合、仕入れ価格と販売価格の逆転が続くので、一連の支援は焼け石に水となってしまう。
ロシアによるウクライナ侵攻によって原油や天然ガス供給が不安定化しており、この影響は長期にわたって続くと予想する専門家が多い。卸売市場のあり方も含め、抜本的な見直しが求められる可能性も出てきたと言って良いだろう。
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