• 2022/01/16 掲載

習近平はスターリンの民族政策とは真逆?知の巨人たちによる「覇権国」への考察(2/2)

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冷戦とは何だったのか?その背景にあるもの

橋爪氏:さて、冷戦とは何か。佐藤先生には釈迦に説法もいいところですが、説明してみます。

 冷戦の本質。ロシアにソ連の政権が成立したのが発端です。なぜロシアに、マルクス・レーニン主義の政権ができたのか。東方教会(ギリシャ正教)の考え方が色濃く影を落としていると思う。

 ソ連の戦略は、共産主義の世界革命です。新大陸は後回しにして、まず旧大陸をすべて支配下に置く。そうすれば、アメリカを孤立させられる、と考えたと思います。標的はまず西ヨーロッパ。それから中東、インド、東アジア(中国)だった。それぞれに困難があります。西ヨーロッパと東ヨーロッパは、大変に文化が違う。西ヨーロッパはソ連に懐疑的です。イスラムは一神教ですから、無神論のマルクス主義に懐疑的です。中国は、はじめソ連の支援を受けて革命を進めたが、付き合ってみたら考え方が違って仲違いした。それやこれやで、ソ連の勢力圏の拡張はうまく行かなかった。アメリカはそれをみて、旧大陸を分裂させておけば、アメリカの脅威にならない、と学んだのです。そして、NATOで囲い込んだり、イスラムをけしかけたり、中国に接近したりした。

 ソ連は本来ならば、戦争して目的を達成するはずだったが、核兵器があったので、戦争を起こせなかった。強力な同盟国をみつけることもできなかった。そうしてアメリカと対峙しているうちに、国力を消耗し、行き詰まって倒れてしまった。

佐藤氏:私も同じ認識です。15、16世紀のモスクワ大公国では、我こそが東ローマ(ビザンツ帝国)の後継国であり、モスクワを古代ローマ、ビザンツ帝国に次ぐ「第3のローマ」とする主張が起こりました。

 そして、ロシア人のもつ普遍主義とマルクス主義が絶妙に噛み合ってしまったことで、マルクス・レーニン主義のソ連政権ができた。

 また、イスラムについては、たとえば、タタール人の民族主義者、ミールサイト・スルタンガリエフ(ロシア共産党に加わり、反革命と戦った人物。タタール自治共和国設立に貢献した)などに現れているように、「ムスリム・コミュニスト(イスラム教社会主義、回教社会主義)」という概念を上手に作り上げました。無神論の社会主義とイスラム教は本来においては接合が難しい。それを「万国の被抑圧民族よ、団結せよ」という形にして、その被抑圧民族をイスラム民族と位置づけることで同盟軍を作ってしまった。

 ただ、やはり理論的にはちぐはぐだったので、1980年代半ばに、それまで無理やりこじつけていた反動が一気に来たという感じですね。中央アジアで人口が増え、無神論をとりながらもイスラム系の種族をそのまま残しておいたことが宗教の布教につながり……と。おっしゃるとおりだと思います。

橋爪氏:イスラムを被抑圧民族と位置づけて、イスラムを支援しよう。そう考えると、逆説的ですが、マルクス主義なのにイスラムを抑圧できないですね。

佐藤氏:そのとおりです。中央アジアでは、ソ連の赤旗のところにイスラームの緑旗を立てて戦っていましたから。スターリン全集を読んでいても、たとえば、こういった記述があります。「ボリシェビキはシャリーアを廃止すると言っているが、大きな間違いだ。人民がシャリーアを必要としているならば、ボリシェビキはシャリーア(イスラーム法)を尊重する」と。かなり無茶なロジックを組み立てていたということですね。

中国がウイグルで行っていることはどう評価すべきか

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『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』
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橋爪氏:そうすると、中国がウイグルでやっていることは、マルクス・レーニン主義、特にスターリンの民族政策とは真逆であることになる。とんでもないですね。

佐藤氏:そういうことです。『毛沢東選集』の第5巻「十大関係について」のなかで、毛沢東は、中国において重要な10の関係性の1つに「漢族と少数民族の関係」を挙げ、「大漢民族主義をふりかざすな」「少数民族を差別するな」「漢族と少数民族の関係をつねに注視し、良好な関係を保て」と書いている。これはスターリンの民族政策の延長線上なんです。だから、今の中国のウイグル政策は、毛沢東路線から大きく外れてきている。

橋爪氏:習近平政権を人権思想で批判するのも、もちろん正攻法なんですけれども、スターリンの大原則から外れていて、共産主義として恥ずかしくないのか、とも主張できる。

佐藤氏:可能ですし、むしろ、特に有効なのは毛沢東でしょう。「十大関係論」の中で、漢族と少数民族の関係を重視せよと説いた毛沢東を完全に無視している。だからこういう混乱が生じているんじゃないかと迫る。そこに、さらにスターリンまで持ち出してくると非常に説得力が出ます。一応、中国におけるキャナリゼーションは毛沢東とスターリンですから、この手は有効ですね。

橋爪氏:そうすると、外務省や政府関係者、ジャーナリスト、アカデミアの人びとが、毛沢東が当時何を言っていたか、中国がどういう少数民族政策をとっていたかを、つぶさに知っておく必要がありますね。

佐藤氏:そう思います。実は『毛沢東選集』の4巻までは早い時期に出たのですが、5巻は出たらすぐに封印されてしまった。その5巻の「十大関係について」というのが非常に重要な鍵になるわけです。
※本記事は『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』を再構成したものです。

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