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ビジネスのグローバル化が進み、アジアへの進出を検討する企業も多い。この10年ほどのアジア諸国の経済的な変貌は目を見張るものがあり、各国の驚異的な成長は、多くの人の予測を超えている。さらに、コロナ禍における対応は、日本における今後の成長戦略を考える上でもヒントになるだろう。中国・香港・台湾・シンガポールなどアジア諸国への進出先駆企業は、地政学を踏まえたビジネス戦略をどのように描いているのか。北京朝倉時尚形象設計 COO ASAKURA 代表の朝倉 禅氏、アジア市場開発 代表の藤 重太氏、北国からの贈り物 代表取締役CEOの加藤 敏明氏、SAKO建築設計工社 代表の迫 慶一郎氏(モデレーター)が語り合った。
本記事は2021年8月9日~11日開催「キリロムグローバルフォーラム 2021夏(主催:vKirirom Japan)」の講演を基に再構成したものです。
コロナリスクゼロを目指す中台、日本が学ぶべきポイントは?
中国・香港・台湾などのアジア諸国に進出した企業のトップは、現地のビジネス環境の変化をどのように感じているのだろうか。モデレーターのSAKO建築設計工社 迫氏はまず、コロナ禍にある各国の現状をどう感じているかをパネリストに問うた。
アジア市場開発 藤氏は台湾の現状について「2020年は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の封じ込めに成功していたが、2021年4月から5月にかけて感染爆発が生じた」と述べる。藤氏は18歳で台湾に留学で渡り、25歳で起業後、台湾歴は35年にのぼるスペシャリストだ。現在は起業の台湾進出サポート、グローバル相談などを手がける。
台湾のコロナ禍対応は「感染者ゼロを目指して対応しており、8月に入って新規感染者が10人以下に抑えられているのは感嘆すべきことだ」と話した。
中国情勢については北京朝倉時尚形象設計 COO ASAKURA 朝倉氏が語る。2004年に北京でASAKURA BEIJINGを設立し、中国最優秀ヘアスタイリスト、アジア最優秀外国サロン賞などを受賞。美容室だけでなく教育事業、美容器具開発、最近ではインバウンド、アウトバウンドPRやイベントプロデュースなどにも取り組んでいる。
朝倉氏は、中国には2020年の旧正月(1月末~2月初旬)明けに渡った。コロナへの不安から、日本国内では不織布マスクの品切れがニュースになっていたころだ。「当時は中国内にも感染が広がっていると感じた。当局の規制は段階的に強化され、感染者が減ると規制が緩くなることが繰り返されている」という。また、朝倉氏は「この1年半で、中国は国内ですべての消費を完結させることが徹底されている」ことを強く感じると話す。
これまで重要視されて来なかった場所やモノが再評価され、開発や購入を促すなど「国内向けの消費に目が向いている状況」だということだ。
同様に「アジア諸国での国内消費の伸び」を実感するのが北国からの贈り物 加藤氏だ。加藤水産三代目として、また、建築家として日本食文化を世界に発信するため和食懐石「蟹鮨 加藤」をプロデュースする加藤氏は、「2015年くらいから、現地法人とパートナーシップを組んでアジア諸国への進出を進めてきた」と述べる。
こうしたパートナーのおかげで「コロナ禍の時期も北海道から香港や台湾、シンガポールとやり取りを続けてきた結果、自国消費の伸びにより、ビジネス状況は、コロナ禍を経た後も順調に推移する見通しだ」という。一方、香港では「香港国家安全維持法(国安法)施行によりビジネス伸長は期待したとおりではない」状況だということだ。
迫氏は「2020年は中国GDPは2.3%のプラス成長を遂げ、2021年も6%台の成長が見込まれるほか、台湾も通年で5.5%の経済成長を見込んでいる」と述べ、パンデミックなどの非常時における成長の背景には「国内消費の伸び」がポイントになるとの考えを示した。
続いて、迫氏は「台湾や中国に共通している感染症対策のポイントは“ゼロコロナ”を目指す点だ」と述べた。これは感染リスクをコントロールする日本や欧米のアプローチと異なる。迫氏は、「中国は共産党の体制によって政府や当局の規制を強化しやすい背景があること」に理解を示しつつ、民主国家である体湾でこれほど厳しい統制が可能になった点について藤氏に見解を求めた。
藤氏は「台湾は2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)感染で痛い目に遭った教訓から、感染症に対する法整備や感染対策のガイドライン整備が進んでいた」点を挙げる。今回のCOVID-19においても、ガイドラインに従って水際対策が行われ、法規制に従って感染対応の運用が行われている。「こうした点は日本にも見習ってほしい部分だ」と藤氏は述べる。
台湾では営業自粛要請中でも飲食・宿泊業はプラス成長
話は経済戦略に移る。迫氏は、中国、香港、台湾、シンガポールのこの10年の変化や成長をどのように実感するかとパネリストに質問した。
藤氏は「この10年で台湾が進めてきた社会制度、感染症などの非常時の対応などの整備の成果が、今回のCOVID-19のパンデミックによって可視化された」と話した。特に、経済発展の点で日本とは異なる成果を強調する。その1つが「振興三倍券」だ。
これは台湾政府が進める経済政策で、国民1人当たり1,000台湾元(日本円で約3,000円)を自己負担することで、2020年7月から12月の間、その3倍となる3,000台湾元(約1万円)の消費ができるというもの。
「政策誘導で国民にインセンティブを付与することで経済を振興した結果、日本が営業自粛要請していた2020年7月、8月の段階で飲食や宿泊業界はプラス成長を遂げることができました」(藤氏)
もちろん、「レストランは店内の飲食は禁止でテイクアウトのみとするなど、感染拡大の対策を行った上での経済振興策だったが、台湾国民はパンデミックは戦時、有事と同じという認識をもっているため、振興策以外に政府からの営業補償は行っていないものの、特に不満は出ていない」ということだ。
【次ページ】日本の強みは食にあり、コロナ後にインバウンドは再び増える
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