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- 2012/11/15 掲載
「美」「食」家電で進むIT化、大幅な収益増に結びつく顧客体験の見直しとは
進む「ハード」「ソフト」「コンテンツ」一体のデザイン
探索財から経験財に向かう電化の流れ
「美・食家電」についてNRI ICT・メディア産業コンサルティング部が考え方の基礎に置いているのがコトラーのマーケティング・マネジメントだ。コトラーはさまざまな製品・サービスについて、3区分を設定している。1つ目は宝石・家具・消費財など、使う前から品質評価ができる「探索財」、2つ目は外食、旅行、理美容など、使ってみて品質評価ができる「経験財」、3つ目は保育、医療、法律など、使っても品質評価ができない「信用財」だ。そして製品は1から2、3に向かって進化するという。
探索財の分野はこれまでの家電が主に対象としてきた領域だが、今や電化の余地は少ない。このため、メーカーの動きは2.の経験財の領域に向かっているが、この経験財の特徴は、ヒトの感性や感覚に訴えるものが多く、「ベネフィットの達成基準が曖昧で製品化がしにくい。しかし、一方で製品の付加価値に達成基準がない点が魅力だ」(笠井洸副主任コンサルタント)という。
一方、生活者もリーマンショック以降、家計の防衛意識が高まり、支出の対価として得られるベネフィットの見極めが難しい、レジャー、外食や美容などへの支出を減らし、代わりにこれまで外出先で消費していた商品・サービスを住宅内で代替する「家ナカ消費」など、支出を抑制する取り組みが拡大している。より少ない出費で利便性を最大限求める動きが進んでいるわけだ。
「調理家電」市場の現状と課題
日本の家電市場は8兆円だが、そのうち食材の調理に用いる「調理家電」の市場はおよそ5,000億円(2010年)で、IHクッキングヒーター、炊飯器、電子レンジの上位3品目が市場の約6割を占める(財団法人家電製品協会よりNRI推計)。また、国内の調理家電の2000~07年の市場成長は、IHクッキングヒーターの伸びによることが大きく、現在はその普及が一巡して横ばいの状況だ。
こうした家電の購入価格をNRIが行ったアンケート調査から見ると、すべての調理家電は2万円以下で購入できるが、電子レンジ、炊飯器、ホームベーカリーは2万円以上の商品購入者が3割を超えており、単価の高い製品にも一定の需要がある。
詳細は個々の製品で見ていこう。
電子レンジ
電子レンジは1990年代から韓国製などの低価格商品が広がり、各社の収益性を圧迫していた。しかし、2004年にシャープが発売した「ヘルシオ」を皮切りに、スチームを使ったオープンレンジが広がることで、機能強化された高価格帯商品の市場が形成された。これによって緩やかながら単価上昇傾向に反転している。
炊飯器
炊飯器はマイコン型からIH型へのシフトなど改良が行われていたものの、2000年代半ばまで価格下落が進んだ。その後、2006年に三菱電機が11万5,500円の「本炭釜」を発売したことで、各社から高級素材を使用した製品が発売され、単価が向上した。
ホームベーカリー
ホームベーカリーは「捏ねる」という調理操作を起点に高機能化を進めたことで、ユーザーを拡大している。とくに2000年代後半に三洋電機(現パナソニック)が米からパンを作れる「GOPAN(ゴパン)」を開発、1年間で16万台を販売する大ヒットとなり、市場の拡大に拍車がかかった。
このように調理家電市場の各カテゴリーで平均単価を押し上げるきっかけとなったブレークスルー製品は、「生活者のニーズを発掘し、新しい調理機能でイノベーションを起こすことに成功した製品」(笠井氏)ということになる。
NRIのアンケート調査によると、8割以上の女性生活者は調理家電を壊れるまで使い続けるか、「今後、購入する予定はない」と回答している。しかし、これは視点を変えれば、潜在的な買い替え需要が拡大していると見ることができる。
では、生活者の潜在的なニーズとは何か?それを探るためには「顧客体験」を見直す必要があると笠井氏は主張する。
【次ページ】ハード・ソフト・コンテンツの融合で顧客体験を変える
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