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- 2009/10/22 掲載
【ベンチマーキング基礎講座(1)】中小企業のベンチマーキングとは?
連載『ベンチマーキング』 ICG国際コンサルタンツグループ会長 髙梨智弘氏
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中小企業が社会的存在であり、利害関係者の価値創造のために、自らも利益を享受しながら継続的に存在する実体であることは、今更論を待たない。そのためには、当然ながら経営環境の変化に対応し続け、大企業に負けず劣らずの持続的成長(Sustainable Growth)をなし遂げる必要な改善・改革を実行することこそ、経営者の責任でもある。
経営環境の変化に対応し続けるには、日々の業務改善だけでは足りず、抜本的な経営改革や業務改革を行わなければならない。つまり、経営改革や業務改革を目的としたベンチマーキングの実施こそが、経営者の最優先事項と言えるだろう。
ベンチマーキングは、「ベストに学ぶ」「知を創造する」という高度で普遍的な命題を、単純に理解しやすい形で目的としているために、全ての経営要因(戦略、経営管理、業務プロセス、人材、財務、情報等々)をその定義に内包している。
したがって、本連載で解説するベンチマーキングは、中小企業の経営を競争力のあるものにする経営改革のための経営変革概念である。それも、戦略(何を:What)論だけでなく、実践(どのように:How)に重きを置いた、理論と実践の融合を成し遂げた経営変革方法論(何をどのように:Whathow ― 相互の概念を常に関係させて考えることが重要であるため、著者はWhatとHowの合成語Whathow を使用することを主張している)である。
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図:ベンチマーキングの効果 |
ベンチマーキングは、プロセス革新という具体的な方法論に落とし込んでいるために、その手法が世界の優秀企業に普及している。しかし、ほとんどのケースでは、方法論のみに目が行ったり、ツールの活用に走り過ぎたり、仕組みの導入だけに終わっている。その結果、ベンチマーキング本来の目的を見失っているように見受けられる。
本来の目的は、経営改革と業務改革を通して、顧客や利害関係者の価値を創造することで、中小企業を適性利益がでる体質に改善・改革することにある。有り体に言えば、「もっと上手な商売や仕事のやり方がないのか?」や、「儲けるための仕組みは、どんなものか?」を探す考え方や手法と、同義でもある。
ベンチマーキング論はさておき、連載の第1回目であるので、このように改善・改革に有効なベンチマーキングの出現の経緯から振り返ってみたい。
ベンチマーキングの考え方自体は、QCの歴史とは逆に、日本で先進企業に学ぶ(世界に学ぶ)品質改善の方法論として開発・実行されていた。
1950年代に「安かろう悪かろう」と揶揄された日本製品は、米国のデミング博士を招聘し学び、QCの導入によって品質向上が進み、1960年代には、全社的なTQCの普及により品質が飛躍的に改善された。1970年代の日本の躍進が影響を与え、米国ゼロックスも日本企業や冨士ゼロックスのベストプラクティスに学んでいた。ベストに学ぶベンチマーキング手法は、米国ゼロックス社によってアメリカに紹介・導入され、体系化された。その後リエンジニアリングよりも導入しやすいことや、ベストプラクティスの考え方と合致し、急激に発展した、現代の代表的な経営手法の1つである。
1970年代にはアメリカを追い越したと言われ、1980年代はエズラボーゲルに「ジャヤパン・アズ・ナンバー1」と持ち上げられ、今は、高品質というと「日本製品の代名詞」になっている。
例えば、ジャスト・イン・タイム(JIT)で有名なトヨタ生産方式(TPS)は、多くの国、企業の製造現場で導入が試みられた。結果として、かなりの品質が向上したと言えるだろう。しかし、トヨタの要求する品質のレベルには、ほとんどの企業で達成していないと言われている。それは、日本のトヨタだからこそできた、と言って過言ではないだろう。
単に方式を真似する手法は、環境変化と競争の激化によって、その活動が形骸化し終息しつつあるのではないだろうか。
ベンチマーキングは、「もの真似ではない」。ベンチマーキングは「拙速にできるものでもない」。ベンチマーキングは「仕組みやプロセスだけ」を参考にするものでもない。ベンチマーキングは、進んだ企業のベストプラクティスの本質を理解・導入し、自社独自のベストプラクティスにしなければ意味がない。
ベンチマーキングは、業界内外を問わず、ベストなものと自社との比較を行うことによりそのギャップを埋め、現状を改善する有効な経営変革手法である。それは経営者にとって採用しやすい、前向きかつプラス思考の本質を持っている。
どんな企業でもSWOT分析を行い、強み弱みを把握し革新のために改革をしようとするが、ほとんどのケースで目の前の改善策に留まってしまう。その理由として考えられるのは、企業の改革担当者が、SWOT分析等の方法論には精通しているが、改革の目標値である「ベストプラクティス」に対する理解が不足していることである。
本稿では、中小企業が経営改革や業務改善を実行する場合に適用する各種の手法・技法のベースにある本質論に迫りたい。そのために、著者のアメリカ、アジア、日本における35年以上の公認会計士およびコンサルタントとしての経験をふんだんに取り込んで、「ベストプラクティス」と「ベンチマーキング」の概念とその導入方法について解説する。
環境が変化し激しい競争環境が続く今、持続的成長を達成するためには、企業は、生産性を向上させ、改善をし続けなければならない。改善の種は、社内の知だけではいずれ尽きるか、または、競争相手に追いつかないことになる。そこで、社外の知(業界トップ企業、コンサルタント、専門家、業界外のベストプラクティス等)に学ぶことが必要になる。他社に良い方法があれば、他社を参考にするのは、元々日本のお家芸でもあった。
良い方法であれば、どこから学んでも構わない。要は自社にとって、有効な方法かどうかを見極めることである。この基本的な考え方について、目的を明確にし、実行方法をプロセス化し、要点をまとめた経営手法が、ベンチマーキングである。
次回は、「ベンチマーキングの目的」について解説する。
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