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- 2009/08/13 掲載
SIerはなぜSaaSではなくクラウド訴求なのか、2.2%しか利用されていないSaaSの今後--矢野経済 忌部 佳史氏
SaaS利用という流れは今後も加速
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まず、前提として、この調査では敢えてSaaSとASPを区別してお聞きしており、SaaSの利用率は2.2%ですが、ASPとしての利用率は13.7%、共同利用型システムとしての利用率は7.5%でした。ここで、SaaSとASPという言葉の定義が一つの問題になると思いますが、調査項目ではSaaSはいわゆる「マルチテナント型」サービスとして、ASPはいわゆる「シングルテナント型」サービスとしてアンケート項目に記載しており、明確な意識のないユーザー企業はASPを利用しているとお答えになる傾向が強いと思われます。
参考リンク:SaaSを利用している企業はわずか2%、今後利用しない企業が8割強
──それにしても、導入が容易なSaaSで2.2%の利用率は衝撃的で、ASPと合わせても16%弱しかありません。
我々はこの調査結果をそれほど衝撃的とは捉えていません。1つの理由として、2008年9月に行った別の調査で「基幹系システムに対するSaaS利用検討意欲」を調べており、その際にSaaS利用検討意欲が「あり」と答えたのは13.5%しかいませんでした。それにまだ「SaaSベンダー」ときちんと呼べる企業が少ないことを考え合わせると、実際に利用している企業は少ないだろうと予想していました。
──SaaSの利用が2.2%にとどまっている理由をどう考えますか?
調査に基づくと、SaaSを利用しない要因で一番多いのは「コストメリットがない」ということです。確かに初期の導入コストは安く済みますが、累積すればいずれはパッケージに追いつくわけですし、判断は難しいでしょう。また、さまざまな機能を付加していった結果、毎月それなりの金額を支払っていたというケースもあるようです。加えて、日本の場合、SaaSを導入して、システムそのものの運用はベンダーがやってくれるようになっても、情報システム部門の人材を削減するといったドラスティックなことはしませんので、人件費の面では大きく寄与しないという側面もあります。
ただ、結論から申し上げるとSaaSの将来についてはポジティブに捉えています。というのも、1つは多くのベンダーがSaaSに注力してきているからです。これからは、SaaSという形態でアプリケーションを利用する流れが徐々に加速していくと思います。ただし、現時点ではまだ本格普及のフェイズにないということです。
──ベンダーやSIerは、SaaSではなく、クラウドコンピューティングという言葉を使ってきている節がありますが。
クラウドにはPaaSやHaaSもあって、SaaSはその一部です。日本の場合、注目すべきはSIerの動きです。今のところ、SIerがやろうとしているのは、まず、自社でHaaSやPaaSを組むこと。そして、パートナーとしてSaaSベンダーを募り、PaaSの上でアプリケーションを提供してもらおうということです。このビジネスモデルは、主に中堅・中小企業をターゲットにしています。
もう1つは、特定の企業グループなどを対象に、PaaS上にその企業グループ専用のSaaSを自社で組み上げて提供するビジネスモデルです。これは従来のシステムインテグレーションのやり方を踏襲して、それをクラウドに置き換えたイメージです。
さらに最近では、プライベートクラウドといって、特定の企業専用にデータセンターを間借りして、クラウド環境を構築するというビジネスモデルも生まれています。
──プライベートクラウドは注目を集めていますが、企業ユーザーには潜在的にインフラからサービスまでをワンストップで提供して欲しいというニーズがあるのでしょうか?
潜在的にあるというより、セールスフォースが進出して、クラウドに対するイメージを変えていったといえるでしょう。たとえば、セールスフォースのSFAサービスを単純に使っているだけではASPとさして違いがありません。しかし、カスタマイズやシステム連携、PaaSなどを提供することで、可能性を大きく広げたということができるでしょう。これから起きるのは、オンプレミス(自社所有)とSaaSを連動させたり、A社のSaaSをB社のPaaSと連動させたりといったことです。これを矢野経済研究所では「クラウドインテグレーション」という言葉で表現しています。オンプレミスとクラウド間の「クラウドインテグレーション」は間違いなく伸びていくでしょう。ASPでは、オンプレミスなものにつなぐのには結構苦労があったはずですが、セールスフォースのようにAPIを公開してつなぐことができるという売り方をしたのは新しい動きといえます。
一方で、SIerは今までのビジネスを崩したくないはずです。SaaSではベンダーがサービスのみを直接エンドユーザーに提供する形態となるため、SIer側の出る幕はなくなります。しかし、クラウドとクラウドをつなぐとか、オンプレミスとクラウドをつなぐといったことをやるには SIerが必要です。実際、SaaSの導入に関するひとつの案件で数億円のシステムインテグレーションビジネスが発生したというケースも出ています。
──クラウドビジネスでは、どれだけコンバージョンできるか。いかに大規模なデータセンターを持っているかということが重要になってくると思います。その点、SIerは大きなデータセンターを持っているので力を発揮できるのではないでしょうか?
残念ながら、世界的に見ると日本のSIerが持っているデータセンターの規模は小さいと言わざるを得ません。海外のクラウドベンダーなどと比べると延べ床面積が1桁違うと言われています。ただ、特に大手の企業ユーザーにとって、データを海外に出すことは相当な抵抗感を伴うようです。クラウドが普及するにつれてその抵抗感は薄れていくと思うので、日本のSIerは、そうなる前に高信頼のブランドを使って、早めに囲い込んでいきたいという意識はあるでしょう。
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