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- 2008/09/29 掲載
クラウドコンピューティングでハードウェアも所有から利用へ--野村総合研究所 城田真琴氏
キーパーソンが語る「SaaS」の未来とその可能性
求めるメリットによって変わる
サービスの選択基準
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ソフトウェアの機能を、インターネット経由でユーザーに提供するという基本的なコンセプトは変わりません。しかし、そのサービスを支えるアーキテクチャには根本的な違いがあると考えています。従来からあるASPでは、ユーザー企業に個別のサーバを割り当て、アプリケーションコードもユーザー企業の要求に応じてカスタマイズされたものが使われていました。ユーザー企業ごとに個別のアプリケーションとサーバ環境を割り当てる、マルチインスタンス・シングルテナントと呼ばれる仕組みです。それに対してSaaSでは、複数のユーザー企業でサーバ環境を共有し、全ユーザー企業が同じアプリケーションコードを使用するシングルインスタンス・マルチテナントというアーキテクチャを採用しています。システムを複数のユーザー企業で共用することで、スケールメリットを出しやすいのが、SaaSの大きな特徴と言っていいでしょう。
SaaSが注目を浴びているのは、システムをすべて自前で構築し、所有するよりも利用するという方向にユーザーの志向が変化してきている表れだと思います。野村総研の調査によれば、企業が現在利用中のシステムの約半数はスクラッチ開発されたものです。パッケージソフトが約4割なのでその次に多いわけです。現状ではASP/SaaSは5%にも満たない少数派です。しかし今後の動向を調べると、スクラッチ開発が減ってASP/SaaSの利用が増えるだろうと答えたユーザーが4割を超えています。
──SaaSの受け止め方は、企業の業態や規模によって違いがあるのでしょうか?
大企業と中小企業でのメリットには大きな違いがあると思います。中小企業の場合、SaaSの利用メリットとして、初期コスト削減や日々の運用管理の手間が不要であることを挙げています。また、柔軟な利用ができることに魅力を感じる企業もあるようです。使いたいときだけ使い、不要になればやめられるということです。
大企業にとっては、すぐに使えるということが最も大きな魅力のようですね。また、ユーザー側で自由に設定を変更できるのも魅力の1つのようです。SaaSならある程度のカスタマイズは、ベンダーに依頼せず自社のシステム部門や現場で対応できます。さらに大企業が感じるもう1つの魅力は、コンプライアンスへの対応です。日本版SOX法も施行され、システム担当者はコンプライアンス対応に心を砕いています。信頼できるSaaSベンダーにシステムをアウトソースできれば、企業の負荷はかなり軽減できます。
──中小企業と大企業で求める要件がそれだけ違うと、導入の際にチェックすべきポイントも変わってきそうですね。?
もちろん、選択の基準は大きく違うと思います。たとえばコストメリットを優先する中小企業の場合は、冒頭で紹介したようなアーキテクチャの部分をまず確認すべきです。サービスがシングルインスタンス・マルチテナントになっていなければ、低料金にはなりにくいからです。シングルテナントのサービスを低料金で提供している場合には、サービスの継続性に不安が残ります。運用負荷の低減が要件であれば、ブラウザ以外にクライアントソフトをインストールしなければならないサービスを避けるといいでしょう。柔軟な利用ができるという点に魅力を感じる場合は、最低契約期間についてのチェックを欠かさないようにしましょう。中には1年や2年という期間を設けているものがあります。
大企業の場合によく聞かれるのは、社内の既存システムと連携させたいという要望です。そういった要望を持っている場合は、SaaSのアプリケーションと自社内のアプリケーションがどのように連携できるか、たとえばAPIが公開されているかといったポイントをチェックしなければなりません。自社でカスタマイズしながら運用したい場合は、カスタマイズ可能な範囲をしっかり調べましょう。タブの名称を変更できるという程度から、ワークフローやデータモデルの拡張までできるサービスもあります。コンプライアンス対応もプロバイダによって違いがあるポイントですから、18号監査やSAS70をクリアしているかどうか、事前にチェックしておくといいでしょう。
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