- 2008/02/04 掲載
改革に必要なのは、「『情熱』と『戦略は細部に宿る』」(竹中平蔵氏)
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冒頭で、竹中氏は1/23~27まで開催されたダボス会議(スイス・WEF主催)に出席した際の感想を紹介した。ダボス会議は毎年、1月下旬に開催され、世界各国の大統領、首相、財界人、経済リーダーが集い、今後の経済やリスクについて話し合われる。今年、日本からは福田首相も0泊3日というタイトなスケ ジュールで出席した。
昨今、世界経済はサブプライム問題に揺れている。金融機関が相次いで発表する予想以上の評価損に、金融危機、そこから派生するリセッションの危険が指摘されている。そのため、当然、ダボス会議で話される今年の経済リスクとして、金融危機が最も注目される問題だと予想された。しかし、竹中平蔵氏は「サブプライム問題による金融危機リスクは、トップ3にも入らなかった」と述べ、場内を驚かせた。
トップは「各国のサブプライム問題への対策の誤り」で、次いで「株式市場の政策への過剰反応」「各国の連携の欠如」、そして4番目に金融危機がきたという。経済リーダーの間では、「サブプライム問題の危機は回避できるという認識だった」(竹中平蔵氏)と語った。
かつてゴルバチョフ(旧ソビエト連邦大統領)は言った。「改革者はみな不幸である」。改革は最初、 多くの人が反対し、成功すると多くの人はできて当たり前だと思う。誰も改革者の努力を省みようとしな い、ことを言う。小泉改革を実行する最中、竹中氏は何度この言葉を思い出しただろうか。次に竹中氏は、改革への戦略について、大臣時代の経験を踏まえながら、語り始めた。
「改革には、受身のリアクティブな改革と攻めのプロアクティブな改革の2つがある」(竹中平蔵氏)。前者は、負の遺産をなくすための改革で、後者は、前に向かって突き進む改革だ。
前者の事例として、竹中氏は不良債権処理問題を挙げた。1980年代、バブルと言われたこの時代、日本のGDPは、年平均4%台半ばで成長を続けた。しかしバブルが弾けた90年代、一転、年平均1%という低成長となった。この間、130兆円の追加経済対策を行ったが、景気は一向に回復しなかった。不況の根本的な原因は、銀行貸出額の約8%にものぼる不良債権問題にあったのだ。
しかし、不良債権問題は一向に改善されず、常に先送りにされていた。まったく進まぬ改革、不良債権処理問題に、ロンドンのあるメディアは日本の体質を痛烈に批判した。「日本は不良債権を一向に処理しない。このままでは世界が日本を処理するだろう」。2002年、金融担当大臣に就任した竹中平蔵氏は、金融庁、銀行業界等が猛反発した金融再生プログラムを実行し、不良債権問題を見事に処理した。今では、完全に解決され、日本の金融は正常化している。
一方、プロアクティブな改革の事例として、小泉改革の本流 郵政民営化を挙げた。2004年、郵政民営化担当大臣に就任した竹中氏は、郵政改革の法案を通し、2007年10月、日本郵政が発足した。
竹中氏は、不良債権処理、郵政民営化と2つの大きな改革を実行した経験から、改革に必要なこと、2つを挙げた。「1つ目は、リーダーの情熱だ。熱い思いがなければ何も変えられない」(竹中氏)。郵政民営化法案の提出の際、こんなことがあったという。
法案提出の前日、自民党の幹部が当時の小泉首相のもとにたずねてきた。この幹部は、小泉首相に「郵政民営化を実現するには与党の賛成が必要になる。法案を通す、賛成するから、この部分を変更してくれ」と、法案の骨抜きを要求、凄んできた。小泉首相は即座に答えた。「わかった。否決するならしてもいい。しかし、その後、やりたいようにやらしてもらう」と、この幹部の要求を突っぱねた。
法案は参議院で否決され、小泉首相は衆議院を解散、総選挙となった。選挙は、歴史的な自民党の勝利で幕を閉じた。郵政民営化は、「多くの困難にも動じない小泉首相の情熱があったからこそ、成し遂げられた」と竹中氏は話す。
改革に必要な2つ目として、竹中氏は「戦略は細部に宿る。戦略的思考をもって細部まで設計することが重要である」と語った。さらに「民営化には、3つの方法がある」と述べ、その重要性を説明し始めた。1つ目は、特別な役割を担う民間会社にすること。NTTがそれだ。特別な法律を作って、政府が出資する。法律と出資によって国のコントール配下に置く。2つ目は、あまり例がないが、農林中金パターン。政府による出資はないが、法律でしばるというやり方だ。法律でしばるということは、監督官庁が存在し、その官庁の天下り先になる。そして、3つ目が完全自由化だ。
郵政民営化の際、竹中チームは、郵政のそれぞれの事業(郵便、金融、保険)を完全自由化する方針を 固めていた。抵抗勢力は当然それに反対だった。そんな中、官僚が法案の文章中に、『完全民営化』ではなく、『完全に民営化』という文言を使ってきたという。竹中氏率いる竹中チームは、これでは不十分だと気付いた。まさに戦略は細部に宿るだ。法文では、どのような文言を使うかは非常に重要である。「この2つは一見同じ意味に思えるが、『完全に民営化』では、3事業のうち、1事業だけでも完全民営化すれば十分、と解釈される」(竹中氏)と語る。
改革はそれが大きなインパクトであればあるほど、抵抗勢力が多くなり、改革の足を引っ張る。 そのため、骨抜きにされないように細部にも細かな注意が必要なのだ。
最後に、竹中氏は、今の日本の現状について、「改革が停滞している」と述べた。世間では、郵政や 道路公団民営化などで改革は終わったという風潮が出ているが、まだまだ日本にはやるべき改革が たくさんあるとしている。では何をすれば良いか。竹中氏は、「逆転の発想で海外に目を向け、海外でやっていて、日本でやっていないことを羅列すればいい」と語る。例として、「羽田空港の国際化、24時間化」「法人税の引き下げ」「小学校の英語教育」。サブプライム問題で注目を集めた「政府系ファンド」などを挙げた。
また、今の日本は、何かあれば、すぐに人や政府のせいにする傾向が強いと嘆く。竹中氏は、自分が教鞭を取る慶應義塾大学の創始者、福沢諭吉を例に出し、こう言った。「国を支えて、国に頼らず。問題は誰かのせいではなく、一人ひとりに責任がある」「だから勉学が必要。それを書いたのが福沢諭吉の『学問のススメ』だ」。さらに、「『学問のススメ』は1000万部売れた」(竹中氏)。この数字は今の出版業界を見ればとてつもない数字だ。さすが福沢諭吉と言いたいとこだが、竹中氏はこう付け加えた。「1000万部売れる本を書いた福沢諭吉はすごい。でも、それを読んだ日本国民はもっとすごい」。日本にはまだまだ潜在力があるとして、講演を締めくくった。
講演終了後、質疑応答があった。1つ目の質問は、「小泉元首相の再登板はあるか」「そして、もし再登板がある場合、竹中氏は再び公職に就くか」というものだった。場内の注目が集まるその回答は、いずれも「No」だった。次は、日本の潜在力を活かすにはさらなる改革が必要だが、「それは一体誰がやるのか?」という質問。これに対して、「政治家は時々オオバケする。小泉氏も中曽根氏も最初は誰が偉大な首相になると予想したか」と答え、必ず、これらかも改革者は出てくると自信を見せた。
編集部
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