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  • 2008/01/21 掲載

フォレンジックの具体的実施手法と米国の動向(後編)(3/3)

デジタル・フォレンジック研究会理事によるリレー連載「デジタル・フォレンジック機運の高まり」(4)

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E-ディスカバリーについて

 冒頭に述べたとおり企業において作成される文書のほとんどが電子文書として管理され、電子メールの利用が進んでいることから、米国においては、民事訴訟等において、電子メールを含む電子文書は重要な証拠となっている。特に電子メールは、従来、書類では書かれなかったような本音が書かれることが多くなり、証拠としての重要性が増して来ている。


図6 E-ディスカバリーのプロセス
 近年、日本の企業が、米国において特許紛争等により民事訴訟に巻き込まれ、本社の役職者にまでE-ディスカバリーが波及してくるケースもあり、E-ディスカバリーやフォレンジックについての理解を深め的確に対応しなければ、民事裁判のプロセスを通して、営業秘密や技術情報を開示する事態、すなわち重要な情報が流出しかねない状況が生じているところである。

 フォレンジックは、民事訴訟の際の情報開示に加えて、企業がM&Aを実施する際に、M&Aの対象企業が違法行為等を行っていないか否かを見極めるための手段ともなっている。

調査専門会社にE-ディスカバリーを依頼すると、概ね図6に示すプロセスにより実施される。詳細は以下の通り。
(1)クライアントとの対話:対話を通じて、クライアント(弁護士等)の要望(紛争事案に係るファイル検索キーワードを含む)を聴取
(2)証拠保全:ハードディスク等の対象機器又はオンサイトから電子的証拠を複製、ハッシュ値を取得
(3)削除ファイル等の復元:削除ファイル、暗号化ファイル等があれば、調査対象として復元
(4)フィルタリング:電子的証拠について、OSやアプリケーション・ソフトウエアなどの既知のファイル、他のパソコンなどと重複しているファイル、白紙の頁および弁護士との打合せ文書等の秘匿特権ファイルなど、E-ディスカバリーの対象にならないファイルを除外
(5)キーワード検索:全文検索等により、該当ファイルを抽出
(6)証拠データ作成:クライアントが抽出されたファイルを専用ソフトウエア(Concordance、Summation等)にて閲覧できるよう、訴訟用データベースを作成



 上記のプロセスを実施するに当たり、クライアント(弁護士)は、訴訟の相手側(弁護士)と事前に交渉し、紛争事案に係わる開示対象ファイルや該当ファイルを抽出する際の検索キーワードを確定しておく必要がある。該当ファイルのデータベースを用いた解析は、クライアントにて行う場合と、調査会社に依頼する場合がある。

米国における取り組みの現状

 2005年3月から2007年1月にかけて、米国内の警察、ツールベンダーおよび大学を訪問した感想は、フォレンジックに係わる産官学での目覚しい取り組みである。

 ツールベンダーについて言えば、当然のことながら世界市場を視野に入れた開発やマーケティングを行っており、この分野における日本企業の存在感は、全く無いに等しい状況である。ツールに関しても日々進化しており、およそ考えられる機能は、既に実現されていた。

 大学では、コンピュータサイエンスのコースにおいて、研究に力を入れている大学が散見されたが、経営学修士のコースでフォレンジックのトレーニングを取り入れている大学も出現していた。担当の准教授にお聞きしたところ、SOX法対応で、フォレンジックのコースを設けたとのことであった。

 我が国においては、民事訴訟の場を含め、出来るだけ情報を開示しないと言う文化的風土が見受けられ、それゆえに他の先進国に比べてフォレンジックに対する取り組みが弱く、SOX法の適用対象となる米国株式市場への上場企業においてすら、理解されていない現状が散見される。このような状況では、国際的な民事紛争に巻き込まれた場合の対処も後手に回りがちであり、重要な情報の国外への流出が危惧されるところである。

舟橋 信
警察庁情報管理課長、技術審議官等を歴任。この間、平成8年度には「マルチベンダによる大規模情報通信ネットワークの開発とその実用化」により、電子情報通信学会業績賞(第34回)及び森田賞(第2回)を受賞、現在、財団法人未来工学研究所にて危機管理および情報セキュリティの研究に従事している。特にデジタル・フォレンジック研究会の創設メンバーであり、デジタル・フォレンジックに関する調査研究、普及に取り組んでいる。




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