連載:キャラクター経済圏~永続するコンテンツはどう誕生するのか(第21回)
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国内ゲーム市場のけん引役である「ソーシャルゲーム市場」で、トップを走り続けてきたCygames。同社は『神撃のバハムート』『アイドルマスター シンデレラガールズ』『グランブルーファンタジー』『ウマ娘 プリティーダービー』など、ゲームの主戦場が「ガラケー」→「スマホブラウザ」→「スマホアプリ」へと移り変わる中で、常にヒット作を生み出してきた。なぜ、同社はこれほどヒットを飛ばし続けられるのか。今回は、DeNA、GREE、Gloops、クルーズ、Gumiなど、業界の主要プレイヤーとの関わりを交えながら、その中で競争を勝ち抜いてきたCygamesの「他社には真似できないビジネスモデル」について、グランブルーファンタジーの経済圏分析を通じて解説する。
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急成長を遂げた「ソシャゲ市場」の歴史
2009~2010年頃、DeNAとGREEの2社がガラパゴスケータイ(以下、ガラケー)向けソーシャルゲーム(以下、ソシャゲ)のプラットフォームを開設し、そこからソシャゲ市場は拡大していくことになる。2社のプラットフォーム開設から2年と経たないうちに数百社が参入し、2000本も新規ゲームがリリースされるというトンデモナイ状態になっていくのだ。
なにせ当時は『PlayStation 3』のような家庭用ハイスペックゲーム機は1000人月で20億円もかけないと作れないとされていた。そんな家庭用ゲーム市場に対して、ガラケー向けゲームは10人月でたった1,000万円程度の製作費と言われていた(出典:『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』2012、PHP研究所)。
4~5人かけて2カ月で創り上げてしまうような“チープな”ものであったにも関わらず、それが数十億、時には数百億円にも化けることに気づいた企業の「ゴールドラッシュ(新たに発見された金鉱に発掘者が殺到すること)」、ゲーム会社のみならずハード機器メーカーもWeb制作会社も猫も杓子もソシャゲを作っていた。
こうしてソシャゲ市場は、371億(2009年)→1,400億(2010年)→2,570億(2011年)→3,429億(2012年)と急激に成長を遂げていく。ちょうど家庭用ゲームソフトの市場規模2,746億を越えたタイミングで、「後発組」として生まれたソーシャルゲームメーカーがCygamesであった。
設立1年で売上100億円越え?Cygames急成長を牽引した「神撃のバハムート」
Cygamesの快進撃は、ブラウザゲーム『神撃のバハムート』(2011年9月)から始まる。2011年5月に設立したCygamesが初めてのゲーム作品として、DeNAが運営するソシャゲのプラットフォーム「Mobage(モバゲー)」にリリースされた本作は、あっという間に月商数億円クラスのトップタイトルとなった。
当時は『ドラゴンコレクション』(2010年9月、GREE向けゲーム)、『大進撃!!ドラゴン騎士団』(2011年7月、Mobage向けゲーム)『大連携!!オーディンバトル』(2011年11月、Mobage向けゲーム)など、ファンタジーモチーフの「カード合成×ガチャモデル」のゲームが市場で隆盛を極めていた。そうした中でリリースされたCygamesの『神撃のバハムート』は必ずしも珍しいジャンルでも発明的なゲーム性を持ち合わせた作品でもなかった。
しかし、当時1枚数万円が相場と言われたカード絵に10万円以上も費やし、とにかく美麗な絵と世界観で「ガラケーなのに見ていて楽しい高品質ゲーム」で差別化し、一躍トップ企業に名乗りを上げる。
だが本当の意味での“神撃”はその後のCygamesの市場アジャストのスピードだろう。神撃のバハムート成功後の2カ月後、2011年11月には『アイドルマスター シンデレラガールズ』をMobageにリリースし、3本目のゲーム作品で年間100億円越えの巨大タイトルに成長する(神撃のバハムートの成功前からCygamesに発注していたバンダイナムコの担当者の慧眼はスゴイ)。
いくら誕生から数年で3,000億円まで拡大した急成長市場とはいえ、月商10億円を超えるタイトルはDeNA、GREEの作品も含めて10本足らず。そこに設立1年未満のCygamesが次々にヒットを生み出すのは爽快なジャイアントキリングであった(ほかの大手ソシャゲメーカーも設立5年未満の会社も多かったが)。
そうした市場動向を受け、DeNAの初動も早かった。2012年2月には戦略的提携を発表(※Cygamesはそれ以来CyberAgentグループ子会社であるとともに、DeNAの資本も入れた会社になっている)し、期待の米国市場展開(2010年10月にDeNA社は米国のソーシャルアプリ会社ngmocoを約4億ドルで買収していた)の旗手として『神撃のバハムート』を選んだのだ。
2012年4月、『Rage of Bahamut』と名前を変えリリースされた本作は、日本企業としては初めてとなるアップルとグーグルのアプリ市場どちらでも売上ランク1位を獲得し、あっというまに100万ダウンロードに到達する。これらはまだ、Cygames設立後1年足らずの話だ。
優等生Cygamesが抱えていた“ある悩み”
2012年の快進撃は止まらないが、逆にこの時期は「秀作」が鳴りを潜めた。同年4月に『ディズニーファンタジークエスト』『バトルスピリッツ 覇者の咆哮』『聖闘士星矢 ギャラクシーカードバトル』『スーパー戦隊ヒーローズ』の4作も出し、6~7月も『サカつく S ワールドスターズ』『烈火の炎 BURNING EVOLUTION』『TIGER&BUNNY ロードオブヒーロー』の3作とトップIP作品のソシャゲ化を続々と手掛ける。
遂には『神撃のバハムート』のゲームスキームを“側替え”して『マーベル ウォーオブヒーローズ』を11月に世界展開した。だが、この1年間にリリースされた8作は、その後1~2年でサービス終了を迎える(平均1.5年とも言われたソシャゲ運営期間からすれば“通常通り”とも言えるが…)。
当時、オリジナル作品に挑戦できなかった理由をCygames社長の渡邊耕一氏は「ゲーム制作の経験がない人が多かったのも大きいですね。しっかりした世界観があるIPものでゲームが創れなかったら、オリジナルでイチからゲームを作れるわけがない」と語っている(出典:週刊ファミ通2021年5月27日号)。
その後、Cygamesはこうした課題をいかに乗り越え、ソシャゲ市場の王者になっていくのだろうか。
【次ページ】「ブラウザ→スマホアプリ」の転換期を制した“賢い戦略”
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