• 2006/10/25 掲載

2007年度から加速するM&A。業界トップを走る企業経営者のジレンマ

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日本の景気拡大は長期化し、本年11月で戦後最長のいざなき景気(1965年~1970年の57ヶ月)を超え、過去最高益をあげる企業も続出している。しかし、このような状況でも業界トップの経営者は、手放しで喜んでいられない。2007年5月より外国企業の株式交換による三角合併が解禁されるからだ。株式時価総額の大きさがものをいうこの三角合併では、日本のトップ企業でさえ簡単に買収されることさえありえる。経営者は買収防衛に力を入れるが、思わぬところで壁が立ちふさがる。

巨大化する外国企業


 2007年5月、外国企業による三角合併が解禁される。巨大な時価総額をほこる外国企業が、国境を越えて日本の大企業を買収する可能性は高くなる。
海外ではすでに国境を越えた大型M&Aが繰り返されている。2005年度M&Aの市場規模は2.2兆ドル、日本円で240兆円にものぼる(トムソン・フィナンシャル調)。

 本年6月まで鉄鋼業界で世界No1の時価総額をほこっていたのは新日本製鐵。日本を代表する巨大企業だ。しかし本年6月、オランダのミタル・スチールがルクセンブルクのアルセロールを約4兆円で買収、超巨大鉄鋼企業アルセロール・ミタルが誕生した。アルセロール・ミタルの粗鋼年産能力は12,000万トン、一方、新日鐵のそれは3,300万トン。一気に4倍近くの差がついてしまった。

 金融業界に目を向けても既に合併・再編が繰り返されている。日本の3大メガバンク、三菱UFJフィナンシャルグループ(時価総額16兆円)、みずほフィナンシャルグループ(同11兆円)、三井住友フィナンシャルグループ(同9.7兆円)の時価総額を上回る企業はいくつも存在する。シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、英HSBCホールディングス、JPモルガンチェースなど。これらの企業は時価総額の差はもちろん、純利益額でも日本のメガバンクをはるかにしのぐ。

 IT業界でも同様である。AT&Tは今年、9兆円でベルサウスを買収。グーグルは1900億円でユーチューブを買収、数々の買収により短期間で企業価値を向上させてきたシスコシステムズなど。
 日本よりも規制緩和が一早く進み、多くのM&A案件をこなし、ノウハウを身につけた超巨大企業外国企業。来年以降、三角合併を利用して本気で日本企業を買収することは現実的におこりえる話なのだ。


買収に備える


 三角合併解禁を目前に控え日本の経営者もただ手をこまねいているわけではない。企業価値の向上を目指し、あらゆる戦略を展開している。財務体質の強化、業界や国境を超えた提携、ポイズンピルや焦土作戦といった買収防衛策の導入。安定株主工作として既存株主への優待や配当金の増配。また、1990年代に一旦解消が進んだ株式持合いも増加している。そして、規模の追求のためのM&Aもその一つだ。


苦悩するトップ企業の経営者


 昨今、日本でのM&Aの件数は急増している。2000年度のそれは1,600前後だったのに、2004年度には2,200強に増加している。本年3月には、1兆7500億円という日本で過去最高の買収金額となったソフトバンクによる英ボーダフォン日本法人の買収も起こった。経営者は、買収標的への最大の防衛策は他社の買収だと考えているといっても過言ではない。

 しかし、そこに大きな壁が立ちはだかる。公正取引委員会による独占禁止法がそれだ。業界ナンバー1の企業が、業界2番手もしくは3番手企業の買収を試みると独占禁止法に抵触する可能性が高くなる。
 公正取引委員会の視点は消費者メリット。外国企業に買収されるリスクが高いからといって独占禁止法を無視する可能性は低い。例えば、ある市場で一社の独占体制が確立されれば、その企業は売り手優位の立場を利用して消費者を無視した価格設定をする可能牲が高くなる。公平な競争が成立しなくなる。
 買収されないためのM&Aによる企業価値向上と、公平な競争環境の維持。業界のトップを走るリーダー企業にとっては、ジレンマが続く。

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