- 2006/10/20 掲載
【グーグル・アマゾン化する社会(2)】Web2.0の光と影 情報の多様化による一極集中問題をどう捉えるか?
インターネットビジネスのトレンドとして、「Web2.0」という言葉が話題になっているのは周知のとおりだろう。Web2.0的なテクノロジーによって、いわゆる「フラット化の社会」が到来し、マスメディアだけでなく、企業でも個人でも様々な情報を積極的に収集・発信できる時代になってきた。しかし、その一方で、「企業や個人のレベルで、本当にフラット化が進んでいるのか?」という疑問にスポットをあてる識者がいる。ジャーナリストの森健氏がその人である。森氏は先ごろ「グーグル・アマゾン化する社会」(光文社新書)を上梓し、Web2.0時代における1つの大きな問題点-----「情報の多様化による一極集中」という逆説的な現象について言及している。Web2.0によってネット上で進展する光と影の事象を踏まえながら、今後どのようにビジネスを展開していけばよいのか、森氏に話を伺った。
森健氏
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-グーグルの場合、インターネットのインフラを握るようなアーキテクチャを半強制的なレベルでつくれた点が成功のポイントだと思いますが、逆にグーグルに競合する企業でも同じようなビジネスチャンスがありますか?
森■ ネット上の情報をクローラで集めてきて、自社サーバに取り込み、インデックス化していくという作業は、基本的にほかの検索サイトでも同じように行われています。ただグーグルの検索サービスが強く支持される理由は、他社のそれよりも精度が高いからです。もし逆にグーグルの技術で不完全な部分があるならば、他社でも新しい技術を取り込んで、より良い精度を出せるようなアーキテクチャをつくることでチャンスが生まれてくるでしょう。
-精度の問題では、セマンティックWebのような研究も進んでいるようですが、こういうテクノロジーも取り入れられていくと?
森■ Webの検索技術では、人間の理解に近い高精度な検索を行う「セマンティックWeb」(注6)も研究されていますが、コンテンツをタグで読みとくことについては、まだ私は懐疑的な見方をしています。検索の仕組み自体がもっと大きく変わらないと無理なのではないかと思います。タグにたくさんの無関係なキーワードを埋め込んでいけば、精度が下がってしまいますし、コンテキストの流れは予想外のところもありますから。予想の範囲に収まるようなもの、たとえば経済の専門用語などで連なっていれば、的確に欲しい情報が選らばれるのかもしれません。
(注6)セマンティックWeb ファイルやページに埋め込まれた詳細な情報(メタデータ)を検索エンジンに認識させ、コンテキスト(文脈)から該当するものを表示させる技術。あらゆる情報をより深く引き出せる可能性がある一方で、偽のデータをメタデータとして埋め込まれると、ユーザーがその信頼性を認識できなくなる、という懸念の声もある |
グーグル・アマゾン化する社会
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-Web2.0的なサービスで広がるような新技術として、今後どのようなものがあれば良いと思いますか?
森■ いまやニュースの役目というのは、多様性を知るためのツールになってきています。ところが政治的・社会的な問題(パブリックマター)に関して言えば、ある調査によると、インターネットではあまり閲覧されることはありません。やはりテレビが中心になっています。こういう社会的に重要なニュースは、放っておいても自然に耳に飛び込んでくる環境が必要なのだと思います。「へー」というように、知らないものに出会う喜びもありますから。Webサイトでも、そういう機能がもっと働くようになると良いのではないかと感じます。
アマゾンでは「リコメンデーション」(注7)の機能はありますが、リアルな本屋のように、本の横にたまたま置いてあるものを手にして、新しい発見をすることは難しいです。まったく違うフィールドで活躍されている人たちのブログで、異なるジャンルの本が紹介されることはありますが、意外性や偶然の出会いのようなものは、どうしても減ってしまう傾向にあると思います(注8)。
(注7)リコメンデーション ある商品を購入する際に、そのユーザーが興味を持ちそうな他の関連商品を表示する機能。商品間協調フィルタリング、データマイニングなどの手法を用いて、同一商品を購入した、趣向が似ている他ユーザーが買った商品を分析し、関連商品をWebに表示させる |
(注8) 自著において、パーソナライゼーションが進むと、個人にとって関心のある情報が自動的に集められる一方で、他の多様な情報に目が向けられなくなる恐れがあると説く。また、パーソナライゼーションによって、集団分極化が広がり、特定のコミュニティの中だけで情報が偏向して流通する可能性がある、としている |
-Web2.0的なサービスを企業が展開していく上で、日本のITベンチャーに期待することはありますか?
森■ いまはまだ、しっかりした技術を持った日本発のITベンチャーがあまりないように思われます。「はてな」や「ミクシィ」のような魅力的な技術を持った企業もありますが、グローバルを対象にした企業、たとえば英語サイトがメインで、日本語サイトをサブとして用意しながら、Web2.0的なサービスで世界的に人気を博している企業はまだありません。ネット上ならば国を問わずに活動できるはずなのに、なぜそういうグローバルな企業が日本から出てこないのか? ずっと不思議に感じていますし、ビジネス的に見ても疑問に思うところです。決定的にすごいと思われるような技術を持っていないこともあるのでしょうが、そういう企業が現れてこないと、本当の意味での「日本のWeb2.0」はないと感じています。英語ができる若い世代がもっと前面に出てきてもいい。従来のような日本的な発想を転換して、グローバルなサービスを展開すれば、Web2.0でビジネスを展開する上でさらに良い結果が出てくるのではないかと思います。
(構成・執筆 フリーランスライター/編集者 井上猛雄)
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