- 2022/02/11 掲載
アングル:挫折したエヌビディアのアーム買収、両社の再出発に重い課題
エヌビディアが2020年にアーム買収方針を打ち出すと、直後から反対の声が満ちあふれた。背景にあったのは、猛烈な競争が繰り広げられている半導体セクターにおいて、アームがそれまで貫いてきた中立的な立場が崩れかねないとの心配だ。
実際、多くのアナリストは、各国・地域の競争当局が懸念を示していることや地政学的緊張を理由に、両社の合併計画は「最初から暗雲に覆われている」と警鐘を鳴らしていた。
そして、SBGが8日、アームをエヌビディアに売却する取引を断念したと発表。アナリストの「予言」が的中した形になった。米英や欧州連合(EU)の当局が厳しい目を向ける中で、SBGは規制手続き面のハードルが非常に高くなったと説明した。
アーム創業者のハーマン・ハウザー氏は、ロイターに「大事な点はアームが常に半導体業界におけるスイスという立ち位置で、500を超えるライセンス全てを極めて公平に取引してきたことにある。この要素が英国と米国、EU、中国の当局者の間で十分に認識されていた」と述べた。
現代自動車証券の調査責任者、グレッグ・ロー氏は「世界中で半導体を巡る戦争が展開されているので、多くの関係者はこれほど重要な半導体設計企業が米国に行ってしまうのを全く望んでいなかった。各国は競うように半導体産業の内製化を進めており、自国の半導体技術が他国に移るのは阻止しようとするだろう」と解説する。
アームの技術をベースにした半導体はエネルギー消費が少ないため、モバイル機器に打って付けだ。また、同社はアップルやそのライバルらに、次々により強力なプロセッサの設計ライセンスを供与することで、スマートフォンの需要拡大を技術面から支えてきた。
エヌビディアとアームは統合によって、現在はインテルの牙城となっているデータセンター向け半導体市場進出を加速できると目論んでいたのも確かだ。
エヌビディアは昨年4月、アームベースのデータセンター仕様CPU「グレース」を発表。これは、同社がこの市場に本格参入する前兆と受け止められていた。
バーンスタイン・リサーチで半導体セクターを担当するステーシー・ラスゴン氏は、エヌビディアがデータセンター市場に参入する上でアームだけに頼っているわけではないとしつつも、独力でこれらの半導体を巡るソフトウエアのエコシステムを構築するのはずっと難しく、アーム買収がプラスに働くはずだったとの見方を示した。
<起爆剤>
一方、アームはエヌビディアへの身売り話が消えたことで、来年中に株式公開を目指すと表明している。同社はSBGの傘下に入った2016年に非公開化された。
アームの次期最高経営責任者(CEO)に指名されたルネ・ハース氏はロイターのインタビューで「再び上場企業となれる機会が訪れてわくわくしている」と語った。
だが、アームは昨年12月まで、エヌビディアとともに英当局に対し、両社を統合する方が、新規株式公開(IPO)よりもメリットがあると説得を試みていた。アームが上場すれば短期的利益の追求を迫られ、スマホ市場の成長が鈍ってきた中でどうしても必要なデータセンター向けサーバー市場に進出する計画が犠牲になるとの理屈だ。
両社が共同でまとめた書簡には「アップルやクアルコム、アマゾン・ドット・コムといったアームのライセンス供与先は売上高の伸びと利益が跳ね上がり、時価総額の急増という恩恵に浴している。(対照的に)アームの最近の売上高はほぼ横ばいにとどまり、コストは増えて利益を押し下げ、今後、さまざまな試練が出現しそうだ」と記されている。
もっとも上海に拠点を置くコンサルティング会社、イントラリンクで半導体セクターを担当するスチュワート・ランダル氏は、明るい材料になり得る要素が1つ存在すると指摘する。上場企業は株主の意向をはばからなければならない半面、技術革新と競争力確保について、ずっと大きな圧力を受ける可能性があると主張した。
「SBGの下で(アームの)売上高はかなり鈍い伸びが続いた。これ(上場)が彼らにとって、起爆剤になると期待している」という。
(Josh Horwitz記者)
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