- 2021/11/16 掲載
アングル:物価高騰とFRBの引き締め観測がもたらすドル高加速
ここ数日はHSBC、シティ、JPモルガンなど複数の有力銀行が、ドルの一段高を予想している。背景には、物価高騰によってFRBが債券買い入れの巻き戻しペースを速め、想定より踏み込んだ利上げに動くとの思惑が浮上していることがある。
ドル高をもたらしている要因は以下の通り。
◎インフレ
米国の物価上昇率は最近数カ月、予想より高い伸びが続いている。このためFRBが物価抑制に向けてもっと積極的に行動しなければならないとの主張が勢いを増してきた。米金利が上がれば、米国債をはじめとするドル建て資産は、利回りを求める投資家にとって魅力が増大する。
米10月消費者物価指数(CPI)前年比上昇率が31年ぶりの高い伸びになったことを受け、ドル指数は10日に1%近く上がって1日の上げ幅としておよそ5カ月ぶりの大きさを記録した。
ウエスタン・ユニオン・ビジネス・ソリューションズのシニア市場アナリスト、ジョー・マニンボ氏は「物価上振れによってFRBの債券買い入れ終了が早まり、市場の予想に先行する形で利上げが始まるようなら、ドルは上昇トレンド入りするかもしれない」と話す。
シティは最近のリポートで、直近4回のFRBの利上げサイクルで見ると利上げ開始段階でドル指数はいずれも上昇し、当初7カ月の平均上昇率は3.1%だったと指摘。物価圧力の高まりとともにFRBは来年1月に債券買い入れの縮小ペースを加速させると予想している。
UBSグローバル・ウエルス・マネジメントのアナリストチームは、FRBが相対的にタカ派色を強めることで、ユーロ/ドルは15日の1.14ドルから来年末までに1.10ドルに下落する可能性があるとの見通しを示した。
◎強気ポジション
通貨先物市場では最近数週間、ドルの買い持ちはじりじりと減少している。それでも米商品先物取引委員会(CFTC)が5日公表したデータとロイターの計算に基づくと、足元の195億1000万ドルというドル買い持ち規模はなお直近ピークに迫る水準だ。
バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチが算出する「ブルベア指数」はこのところ16年12月以来の高水準付近で推移しており、ドルの強気ムードを示唆している。同社のストラテジストチームは「(ドル買い持ちの)ポジションは現時点で伸び切ってはいないが、昨年の売り持ちは解消されている」と記した。
◎新興国市場
ドル高は特に新興国にとって厄介で、彼らが抱えるドル建て債務の返済負担が高まってしまう。
今年に入ってからのトルコリラとブラジルレアルに対するドルの上昇率はそれぞれ35%と5%。MSCI新興国市場通貨指数の上昇率は0.9%にとどまり、このままだと年間ベースでも過去3年で最も小幅の上昇となる。
15日には、トルコ中央銀行が追加利下げに動くとの懸念からリラが対ドルでまた最安値を更新している。
UBSグローバル・ウエルス・マネジメントのアナリスト、ティルマン・コルブ氏は先週のノートで「FRBが金融引き締めに乗り出し、中国を巡る不安があって、パンデミックは根強く残り、多くの新興国は先進国ほどしっかりした成長見通しを到底確立できない。これはつまり、(新興国通貨が)ドルに対してさらに弱くなるという意味だと思う」と述べた。
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