- 2020/12/30 掲載
展望2021:デジタル化市場は拡大、コロナで投資2極化=IDC Japan
DXは日立製作所や富士通など大手ITベンダーが注力する分野で、菅義偉政権もデジタル庁設置などの取り組み強化を打ち出した。IDCでは、2020年の世界市場規模を1兆3000億ドルと試算。前年比では10%増で、19年の同18%増に比べ伸びは鈍化するが、統計対象の全19業種でプラスとなっている。「コロナ禍の影響で世界中の企業が設備投資を絞る中にあっては、底堅さがうかがえる」とIDCの敷田康リサーチマネージャーは指摘する。
日本での調査では、コロナ禍でもDX投資を拡大したり変えなかった企業は6割。一時的な見合わせが3割で、完全に投資を凍結した企業は5%程度に限られた。世界の企業も同様の傾向にあるという。コロナ禍はDX投資に一定の影響は与えたものの、将来を見据え、非接触やリモート業務への投資は必要との認識を企業は持っているとみられ、IDCでは、19―24年の5年間の平均成長率は15%程度と、成長の継続を予想している。
<コロナで投資に2極化、「DX格差」の恐れも>
もっとも、コロナ禍で業種や企業によってDX投資姿勢に2極化が生じてきており「DX格差」につながる恐れもあるという。経営が苦しく投資を控えざるをない企業がある一方、財務が強靭な企業はコロナで行動が制限される今だからこそデジタルに投資するという動きもある。「余裕のある企業はDXによる効率化が進む一方、投資できない企業は後れを取っていく」(敷田氏)構図だ。
業種別では、観光や宿泊、旅行業を含むサービス業や、鉄道・航空など、人の移動を伴う業種はDX投資の勢いが削がれているのが目立つという。素材分野は上半期の自動車減産の影響を受けた鉄鋼や、航空機の発注減が響く炭素繊維の分野で、DXも抑制気味になったようだ。
消費者向けでは、レストランなどの外食でDX投資が大きく落ち込んだ一方、ドラッグストアやスーパーでは電子商取引(EC)の投資を進め、逆に売り上げを拡大している企業もある。コンビニエンスストアでは、都心部の特定の店舗で無人化実験が始まっており「来年から再来年にはかなり広がりを見せそうだ」(敷田氏)という。
<政府のデジタル化の成否>
政府のデジタル化の取り組みは、海外からの関心も高い。スマートシティの国際フォーラムでは、平井卓也デジタル改革担当大臣が最初にインタビューを受けており「ようやく本腰を入れるようだと受け止められている」と、IDCの村西明グループマネージャーは指摘する。もっとも、その真価の見極めはこれからだ。デジタル政府に関する国連や民間による調査では、日本は北欧や韓国に遅れをとっている。
先行するエストニアは、国を挙げて共通基盤をブロックチェーンでつくっており、関与するベンダーが他国に売り込みに行っている。韓国は自国のデジタル政府のシステムを輸出してきたとアピールしている。「これらの国では、国家の基盤を整えることで産業を活性化しようという目的があるが、日本はそれが見えてこない」(村西氏)。
これまで総合行政ネットワーク(LGWAN)が整備されてきたが、地方自治体でバラバラに運用されてきた。政府はこれを見直して国と地方自治体のシステムを統一することで利便性の高いサービスを提供しようとしている。過去の轍を踏まないためには「共通基盤システムを国道などと同様に国のインフラと捉え、地方任せにせず、政府主導でやり抜くことが重要」と、村西氏は指摘する。
<ポストコロナのDX>
コロナ後をにらんだDX投資も進んでいる。昨年まではAIを活用した生産体制など効率重視の取り組みが中心だったが、今年からは非接触や省人化、リモート監視に焦点を当てたオートメーション技術への投資が目立つ。「従業員の安全性、事業継続性を踏まえた意識が高い」(敷田氏)という。
コロナ禍で一時的にサプライチェーン(SC)が麻痺したことも、企業の投資スタンスに影響を与えている。敷田氏は「デジタル技術でSCを最適化するための投資が、今まで以上に加速する可能性がある」とみている。例えば製造業では、部品サプライヤーの納期・品質や、完成品の卸・小売業者の情報を可視化し、よりクオリティの高いSCをつくろうとする動きがワールドワイドの傾向として出てきているという。
今年はコロナ禍で、DX投資の伸びがいったん抑制されたが、来年以降にワクチンなどが普及してくれば、投資は大きく再開されると敷田氏は予想している。
*インタビューは12月4日に実施しました。
(平田紀之 編集:石田仁志)
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