- 2020/10/26 掲載
アングル:ペイパルの暗号資産決済、ビットコインに追い風か
しかし多くのフィンテック専門家によると、この措置によって既存の暗号資産が決済サービスの傍流から脱皮する可能性はほとんどないとみられる。暗号資産は支払いの手段というより、金(ゴールド)に近い投資資産と見なされることが多いためだ。
ただペイパルの決定は、競争が激化するデジタル決済業界において新たなユーザーを獲得する一助にはなりそうだ。この業界ではイノベーションこそがすべてだ。
またペイパルは、今回の措置により主流デジタル通貨の誕生に備えることができるかもしれない。こうした通貨は各国中央銀行が開発する可能性があり、既存金融体制の転覆を目指すビットコインとは価値観がかけ離れている。
コンサルト・ハイペリオンのディレクター、デービッド・バーチ氏は「今回の決定は、法定通貨がデジタル化する将来を見据えたペイパルの賢明な対応という側面の方が大きいと思う。ビットコインの状況そのものは大して変わらないだろう」と話した。
ペイパルは21日、米国でのアカウント保有者による暗号資産の保有と、加盟2600万店での暗号資産による支払いを可能にすると発表した。来年上期までには、若者に人気の個人間送金アプリ「Venmo(ベンモ)」にもこのサービスを広げるとしている。
これによりペイパルは、消費者に暗号資産サービスを提供する企業として世界最大級となる。ビットコインの価格は発表を好感して急騰し、過去1年余りの最高値を付けた。
ブロックチェーン・ソフトウエア企業コンセンシスのレックス・ソコリン氏は「ペイパルとビットコインが結びつけば、ビットコインなど聞いたこともない普通の人々の間でビットコインが実用的なデジタル資産として認知されるきっかけになる」と述べた。
ただ他の専門家らは、この結びつきによって受ける恩恵は暗号通貨よりペイパルの方が大きいかもしれないと言う。実際、ペイパル株は計画発表後に急騰した。
<利用拡大効果は未知数>
フィンテックコンサルタント会社11:FSの共同創業者サイモン・テーラー氏は、オンライン証券のロビンフッド・マーケッツやモバイル決済企業スクエア<SQ.N>がビットコインの取り扱いによってユーザーの取引をてこ入れした例を挙げ、ペイパルも顧客の関心を引きつけられるかもしれないと言う。
ただテーラー氏は「問題は、ビットコインを買い物に利用したいと思う人がいるかどうかであり、そこは未知数だ」と述べた。
過去10年間でコンピューターのデルや旅行サイト運営エクスペディア・グループなど、大手企業がデジタル資産の受け付けを発表したが、いずれも決済手段としての大々的な利用には結びついていない。
暗号資産とブロックチェーンについて複数の論文を著したマイケル・ロークス氏は「暗号資産で支払いたい人はいない。だれもが望むのは、相場が上昇した際に儲けるため、保有し続けることだ」と話す。
ブロックチェーン・ソフトウエア企業クリアマティクスのティム・スワンソン氏も「過去を振り返ると、ビットコイン専用の決済はダークネット(アクセスが制限されたウェブサイト)関連市場でしか活発化していない」と説明した。
<中銀デジタル通貨>
ただ長期的に見れば、ペイパルは主流デジタル通貨の決済サービスで最前線に立てるかもしれない。現在、欧州中央銀行(ECB)など世界中の主要中銀がデジタル通貨発行の研究を加速させている。最も進んでいるのは中国人民銀行によるデジタル人民元のプロジェクトだ。
ペイパルのダン・シュルマン最高経営責任者(CEO)は、中銀デジタル通貨について各規制当局と連携していると述べた。
(Anna Irrera記者、Tom Wilson記者)
関連コンテンツ
PR
PR
PR