- 2025/04/09 掲載
インタビュー:米関税で物流の変化を注視、株主還元前倒しも=商船三井社長
[東京 9日 ロイター] - 商船三井の橋本剛社長はロイターとのインタビューで、ブラジルから中国への穀物輸出が増加するなどトランプ米政権の関税政策で物の流れが変わる可能性があるとし、変化の波に乗り遅れないよう状況を注視していく考えを示した。関税の影響を見極めつつ、株主還元を前倒しで強化することを検討していることも明らかにした。
橋本社長は「低い関税の国から(米国へ)の貿易量が増え、高い国からの貿易量が減る、といった流れにおそらくなってくる。米国の製造業がすぐに国内で生産できるようになるとは考えにくいので、そうしたトレードパターンの組み替えを丁寧に注意深く見ていく」と語った。
5日に発効したトランプ大統領の「相互関税」は、自動車や鉄鋼など一部を除くすべての輸入品に一律10%をかけた。9日からは東南アジア諸国や日本、インド、欧州連合(EU)など、対米貿易黒字額が多い国・地域ごとにそれぞれ税率を上乗せした。
各国が税率の引き下げや除外を求めてトランプ政権との交渉を模索しており、橋本社長は「交渉の結果、比較的高い関税の国と、低い関税の国が出てくる」と予想。情報収集などに力を入れる考えを示し、ワシントンに事務所開設を検討していることを明らかにした。
第1トランプ政権時も荷主の間で貿易ルートを組み替える動きはみられ、関税を引き上げられた中国からの対米輸出が、ベトナム経由になるなどの変化があったという。また、中国が報復関税をかけたことで米国からの大豆輸入が2018年に急減し、代わってブラジルからの輸入が増加したことも世界銀行のデータから見て取れる。
橋本社長は当時を振り返り、「北米の西海岸から中国へ運ぶのに比べると、ブラジルからは2倍くらい距離がある。船会社にはかなり需給好転の要因になった」と述べた。
足元はまだ荷主の対応に目立った変化はないという。橋本社長は「実際に高い関税を課せられ、高い物が売れないとか物が動かないといったことが現実化してくるのは、おそらく今月末や来月になってからだろう」と話した。
関税が自社の業績にどう影響するかは、現時点で「読み切れない」とした。2036年3月期まで続く現在のグループ経営計画は27年3月期から第2フェーズに入る。高水準が続いたコンテナ船運賃の追い風などで財務指標が目標を上回って推移し、自己資本が厚くなったことから、橋本社長は第2フェーズから計画していた配当性向の引き上げを1年前倒すことを考えていると明らかにした。一方、「関税のマグニチュードを見極めたい」とも語った。
このほか橋本社長は、トランプ大統領が自国の造船業復興策として提案している中国製船舶の米国への入港料徴取に言及した。規制対象が中国製の船なのか、中国製の船舶を使う海運会社の船すべてなのか不明確ながら、後者であれば非常に大きな影響があるとした。商船三井が運航する船舶941隻(25年3月末見込み)のうち、中国製は約5%。
定期船の業界団体、世界海運評議会は中国製コンテナ船のみを対象とした試算として、米国の消費者に年間300億ドルのコスト負担になるとしている。
(編集:久保信博)
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