• 2024/01/31 掲載

異次元緩和に効果、「2年で2%」巡り議論=13年下半期・日銀議事録

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Takahiko Wada Takaya Yamaguchi

[東京 31日 ロイター] - 31日に公表された日銀の2013年下半期の金融政策決定会合の議事録からは、同年4月に黒田東彦総裁の下で打ち出した量的・質的金融緩和が歴史的な株高・円安につながるなど、政策効果にボードメンバーが安堵する一方で、「2年で2%物価目標を実現」と打ち出した異例のコミットメントを巡り、メンバー間で認識の差が出てくる姿が垣間見られた。(以下、肩書は当時)

<荒れた長期金利も低位安定へ>

アベノミクスの推進役と期待され、総裁に就任した黒田東彦氏の下、13年4月会合で「2年で2%物価目標を実現する」とうたい、日銀は量的・質的金融緩和に踏み出した。13年の1年間で日経平均は56%、ドル/円は2割上昇した。同年下半期は、期待した政策効果が着実に出てきているとして金融政策の現状維持が続き、歴史的な円高で断続的な追加緩和に追い込まれた白川方明総裁時代とは様相が一変した。

量的・質的金融緩和を打ち出した当初、長期金利には上昇圧力がかかり、5月下旬には一時1%を超えたが、日銀が大量の国債買い入れを続ける中で緩やかな低下傾向に転じ、9月以降は0.6―0.7%のレンジで安定的に推移した。

森本宜久審議委員は7月の会合で「前回会合以降、国際金融資本市場の変動が大きくなるもとでもわが国の長期金利が安定している背景には、(国債)買い入れの進行とともにオペ運営の柔軟化の効果がある」と指摘。政策効果を最大限発揮していくためには、引き続き市場のボラティリティを抑えていくことが肝要だと説いた。

岩田規久男副総裁は「予想インフレ率が2%に向けて上がっていく一方で、名目金利はそれほどは上がらないというルートを通じて、実質金利が低下する効果が続く」と述べた。

<重要なのは「2年で2%」か「2%を安定的に持続」か>

喫緊に対処しなければならない課題に乏しくなる中、決定会合で議論が盛んになったのは金融政策についての市場や国民とのコミュニケーションのあり方だ。

白井さゆり審議委員は8月の決定会合で、声明文に盛り込まれた「(物価)2%を2年程度を念頭に早期に実現」という日付ベースの表現と、「2%を安定的に持続するのに必要な時点まで金融緩和を継続」という経済状態に条件づけられた表現とは「どちらが優先されるのか分かりにくい」と指摘した。

白井委員は、執行部による対外説明資料では2年で2%実現の方が「コミットメント」という強い表現とともに前面に出ているが、そのコミットメントが「満たされないと判断されれば、2年程度で実現するように市場参加者が追加的な金融緩和を期待、要請するのはある意味自然」と述べた。

国民から両者の表現のどちらが重視されるかで、追加緩和のタイミングや内容への期待が異なり得るとして、対外的なコミュニケーション戦略としては「2%を安定的に実現するまで継続していく」との表現の方をより明確に情報発信する工夫が必要だと語った。

これに対して、黒田総裁は「2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に」の文言はデフレ脱却に向けた日銀の強い決意を示す意味があると説明。「インフレ期待に働きかけるという政策目的からも、この部分を弱めるような情報発信を今行うのは適当ではない」と述べた。

<総裁講演での図表が「波紋」>

コミュニケーションを巡っては、黒田総裁の講演資料が波紋を呼んだ。黒田総裁は12月の東京大学公共政策大学院での講演で量的・質的金融緩和の枠組みを説明したが、この時用いた一部の図表で、マネタリーベースの増加が15年になっても続くような描き方になっていたことが12月の決定会合でやり玉に上がった。量的・質的金融緩和を決めた4月の声明文では、マネタリーベースの増加ペースは14年末までしか示していなかったためだ。

佐藤健裕審議委員は「15年以降の見通しを一部示すことにより現下の政策継続期間について一定の示唆を与えているようにみえる」と指摘、資料を見た一部のエコノミストやストラテジストは、量的・質的金融緩和が15年以降も延長されると捉えているようだと付け加えた。その上で「政策の継続期間についての情報発信の仕方は非常にデリケートな問題だけに、細心の注意が必要だ」と注文を付けた。

12月会合は市場で追加緩和観測が高まる中で開催された。14年4月に予定されている消費税率引き上げ後の経済の落ち込みへの対応が必要との見方や、現行の政策だけでは2%目標を2年程度で達成することが難しいのではないかといった見方が出ていた。10月の展望リポートでは、14年度の消費税率引き上げの影響を除いた場合の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の伸び率予想が1.3%で2%目標からはかい離があった。

佐藤委員は「14年度の政策委員会の中心的な物価見通しの前年比プラス1.3%が0.何ポイント未達になりそうだから緩和するといった些細な話ではない」と述べた上で、「仮に、戦力の逐次投入をしないという当初の方針に違背して追加策を打った場合、本年4月4日以降今日に至るまで家計、企業、市場参加者に及ぼしたのに匹敵する心理的効果を得られるかどうか不確実性が大きいほか、仮に効果が得られるとしても、4月の政策決定ほどではなく、ベネフィットとコストが見合わないものとなることを懸念している」と語った。

岩田副総裁は「日本銀行は2年で2%のインフレ率の達成を目的としているので、2年程度で2%のインフレ率になった途端、あるいはそれが見えてきた段階で、量的・質的金融緩和をやめる」と思っている企業経営者が少なくないという話をある会合で聞いたと言及した。

その上で「これからのコミュニケーションとして、総裁記者会見等で、量的・質的金融緩和は2%のインフレが安定的、持続的になるまで続けるという意味で、カレンダーベースではなくアウトカムベースであると伝えることが人々の量的・質的金融緩和の持続期間についての誤解を解くうえで重要だ」と発言。8月会合で黒田総裁が「2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に」の部分を弱めるような情報発信はすべきでないと述べたのとは異なるスタンスを示した。

<簡単に上昇しない中長期の期待インフレ>

コアCPI前年比は5月にマイナス圏を脱却、その後も緩やかに伸び率が拡大し、12月には1.3%となった。もっとも、木内登英審議委員は10月初旬の決定会合で「消費者物価の上昇率は足もとで顕著に高まったが、それにもかかわらず向こう5年、10年といった中長期の期待インフレ率は簡単には上昇しないものだ」と述べていた。

13年下半期を通じ、追加緩和には踏み込まず、「戦力の逐次投入は避ける」との黒田総裁の言葉通りの展開となったが、14年になると事態は予期せぬ方向に展開していく。新興国の需要減から原油先物価格が急落、消費税率引き上げ以降に需要が減退し、黒田日銀は追加緩和に向かうことになる。

(和田崇彦、山口貴也)

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