- 2024/01/14 掲載
アングル:新型ロケット「バルカン」、スペースXの市場支配崩せるか
[ワシントン 10日 ロイター] - ボーイングとロッキード・マーティンの合弁企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)が8日、新型ロケット「バルカン」の初飛行を成功させた。
企業家イーロン・マスク氏が率いるスペースXと本格的に競争できる宇宙企業として名乗りを上げた形で、長らく衛星打ち上げロケットのサプライヤーについて複数の選択肢を求めてきた米政府にとっては、画期的な出来事と言える。
今回、バルカンが搭載していたアストロボティックの月面着陸機「ペレグリン」は技術的な問題で計画を達成できそうにないが、バルカンの打ち上げ自体は成功している。
これを機にULAは、スペースXが牛耳ってきたロケット打ち上げ市場のシェア拡大を目指す。同市場では何年もの間、各国政府や企業はスペースXの再使用可能ロケット「ファルコン9」に頼るしかない構図が続いていた。
クイルティ・アナリティクスの宇宙アナリスト、カレブ・ヘンリー氏は「この打ち上げ(成功)でULAは、事実上市場を独占しているスペースXに挑戦する一番手の立場を得た。ULAがバルカンを短期間のうちに頻繁な打ち上げができる状態に持って行けると証明できれば、市場に宇宙への別ルートを提供することになる」と指摘した。
米国防総省としても、スペースXだけに打ち上げを依存する事態はずっと懸念材料だった。
イリノイ大学先進宇宙システム研究所の宇宙コンサルタント兼ディレクター、マイケル・レムベック氏は「スペースXが将来何らかの支障を来しても、バルカンで国家安全保障上のニーズを満たすための宇宙への道筋が確保される」と説明する。
打ち上げ需要は急増しており、各国政府やアマゾン・ドット・コムなどの民間企業が進める数多くのインターネット通信衛星配備計画が主な要因。
ところが、西側に提供される打ち上げの機会は逆に減っている。欧州は独自のロケット開発に遅れが生じているほか、ロシアのウクライナ侵攻以降は西側がロシアのロケット打ち上げプログラムを市場から排除しているからだ。
さらにスペースXの「スターシップ」やアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が率いるブルーオリジンの「ニューグレン」といった超大型ロケットは、実際の打ち上げまでまだ数カ月ないし数年が必要になる。
ULAのトリー・ブルーノ最高経営責任者(CEO)は、バルカン打ち上げ前のインタビューで「新たな超大型ロケット開発には長い時間がかかるので、(打ち上げロケットの)乏しさは今から10年前後は続くだろう」と述べた。
バルカンが無事打ち上げられたことで、ULAは今後約70件のミッションの受注をこなす段階に入る。受注の内訳は、政府関連と商業関連がほぼ半々。商業関連は、アマゾンが低軌道に多数の衛星を投入してブロードバンドサービスを展開することを目指す「カイパー計画」が大きな部分を占める。
<受注競争>
バルカンによる打ち上げの最低価格は約1億1000万ドルで、ULAがそれまで運用していた「アトラス5」の半額。スペースXのファルコン9は1回の打ち上げ価格が6200万ドル前後に設定されているが、国防総省のミッションはもっと高くなる場合もある。
ULAとスペースXは、安全保障関連ミッションの受注獲得ではしのぎを削っている。2020年に国防総省は、27年までの安全保障関連ミッションの60%をULAに、残りをスペースXに割り振った。
バルカンは補助ブースターとして最大6基の固定ロケットモーターを使用することが可能で、低軌道なら2万7000キログラムまで、より高い軌道では1万4500キログラムまで運べる。
ファルコン9と、3基の補助ブースターを備えたファルコン・ヘビーは、低軌道で6万3500キログラム、より高い軌道で2万6700キログラムの重量を搭載できる。
アトラス5に使用されていたエンジンはロシア製の「RD-180」だったため、ロシアが14年にクリミアを併合すると安全保障上の懸念が浮上してファルコン9の台頭を許す結果となり、ULAがバルカン開発を急いだという流れがある。
バルカンのエンジンは、ブルーオリジン製の「BE-4」。ただ、ブルーオリジンは、バルカンにとってより強力なライバルとなる7基の「BE-4」を搭載したニューグレンの実用化を急いでいる。
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