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- 2021/04/27 掲載
斎藤幸平氏に聞く資本主義を是正する方法、イノベーションでは解決不可なワケ
連載:2030年への挑戦
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「コモン」をキーワードに、一人ひとりが新しいアクションを
──日頃、経済成長を標榜する資本主義に組み込まれている人が「脱成長コミュニズム」の実現を目指す場合、どのように意識を変えていけばよいのでしょうか。斎藤幸平氏(以下、斎藤氏):いきなり企業が「これから利益を求めるのを一切やめます」と180度の方向転換するのは難しいでしょうが、「コモン」(公共財)の再生はいろいろな次元で実現できます。ただ、「コモン」というと、すべて無料にすることとよく勘違いされるのですが、必ずしも無償である必要はなく、あらゆる人々に対して開かれた技術やプロジェクトを創り出す、という意味です。
そうした「コモン」の再生から、資本主義にヒビを入れていくしかない。 「どうやったら、もっと開放的技術にできるか」「どうやったら、人々がもっとお金を使わなくてすむようになるか」「もっと主体的に参加できて、楽しい経験ができることはないか」という視点を日々の仕事のなかでも、持ってほしいと思います。
その一方で、 労働者だけでなく、企業も「脱成長」に遅かれ早かれ、真剣に取り組まざるを得なくなっていくはずです。人類が住めないような地球になってしまえば、経済成長も何もないですから。
かつて、パタゴニアは、は2011年11月のブラックフライデーに、NYタイムズの一面に「Don't Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という広告を掲載したことがありました。全米が買い物に夢中になるこの日に、過剰な消費へ警鐘を鳴らしたのです。
しかし、こうした広告のメッセージを出すことだけにとどまらず、今回のコロナ禍を契機として、多くの企業が変革を迫られています。たとえば、ファッション業界では、グッチ(GUCCI)がコレクションショーのスケジュールを年5回から2回に減らすことを表明しました。もっと生活に近い分野でも、たとえば、花王とライオンが昨秋、洗剤の詰め替え容器のリサイクルに協働して取り組み始めましたよね。
それから、 企業人ならば、おそらく「労働組合」にも加盟していますよね。労組が、労働時間の短縮を求めることも、脱成長につながるので、重要です。とくに私たち日本人は働き過ぎ。フランスでは週35時間労働ですし、フィンランドは週の労働時間を25時間にしようとしています。週休3日制が実現できれば、脱成長に大きく貢献する一方で、家族と過ごしたり、趣味に打ち込んだり、生活じたいも豊かになるのではないでしょうか。
発想の転換で別の豊かな社会を
──行き過ぎた資本主義を是正する社会へ考えをめぐらす人が増えているように感じます。斎藤氏:そうだと思います。とくにアメリカの若い世代では、資本主義より社会主義を求める人が急増し、過半数を超えています。資本主義ではない世界を具体的に想像することは、たしかに難しいのですが、ソ連型ではないコモン型のポスト資本主義経済を『人新世の「資本論」』では示したつもりです。
実際、欧州ではそうした動きが活発です。大都市パリでは民営化されていた水道が再公営化し、水を「コモン」として市民も参加しながら管理するようになりました。 バルセロナでは道路の「コモン」化が進んでいます。街中の道路を次々、自動車を進入禁止にして、広場として開放しています。そのおかげで、二酸化炭素排出減も、大気汚染防止も、可能になりました。その結果、現在の住民の暮らしやすさという面でも、将来世代のための環境保持という点においても、この「スーパーブロック」という一見、地味な政策は、大きな貢献になっています。
資本主義の論理だけで考えれば、自動車が走りやすいように道路をひろげ、空いている土地があれば、できるだけ高いビルを建て、より多くの賃料を取ろうと考えるでしょう。しかし、それでは「よりよい暮らし」にはならない。私たちの思考をもっと「コモン」の再建にシフトさせることが必要です。「この空いているスペースは、お金は生まないけれど私たちに別の豊かさをもたらす」という考え方に転換していくのがその一歩です。
「環境と経済の対立」と表現されますが、その対立を克服して皆が幸せを感じられる社会を考えた方がいい。けれども、それは環境を使ってさらなる経済成長を目指すことではなく、環境に合わせて経済のあり方を変えていくことで達成すべきです。「モノを大量に作る必要があるのか」「都市部に人口が集中して満員電車に乗る必要はあるのか」という点を抜本的に見直すべきなのです。私たちは資本主義の下ではそうした思考ができなくなっています。コロナ禍を機会として、皆で想像力を働かせてよりよい生活を送れるアイディアを考えていきたいですね。
【次ページ】コロナ禍を新しい社会を考えるきっかけに
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