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- 2009/10/15 掲載
「在庫は悪」なのか?在庫の基本を知る:CIOへのステップアップ財務・戦略講座(2)(2/2)
在庫の基本を押さえたところで、より実践的にトヨタの製造原価明細書(図2)をもとに、在庫削減の方法を考えてみましょう。製造原価明細書とは、有価証券報告書に含まれている内容で金融庁の開示システムEDINETあるいはトヨタのホームページからもダウンロードすることができます。製造業では、製造にかかった原価を表しています(図2で引用したものは、あくまでトヨタ単体の製造原価を示した内容です。非製造業の関連会社などを含めた連結決算の内容ではありません)。
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なぜ製造原価明細書から見るのかということですが、商品を売るためには当然、製品価格が必要です。最初のリンゴの例であれば、仕入値をもとにシンプルに価格を決めることもできるでしょう。一方で、自動車のように5万点を超えるパーツからなる製品価格を決めることは簡単ではありません。部品の原価以外にも組立に必要な人件費、工場を維持するための維持費や燃料費など、さまざまな原価が発生するからです。そこで、まず製造原価明細書から、トヨタで1年間にどれだけ製造原価が発生したかを考え、そのうえで製品価格を考えるのです。
製造原価計算の始まりは、産業革命が始まった19世紀前後のイギリスと言われています。当時、製造工程が複雑になり、どうやって製品価格を決めるか議論された結果、正確に製造原価を算出することに行き着きました。そして、この流れが現在の製造原価計算を含めた工業簿記に受け継がれています。
この製造原価を把握する上でのポイントは、期首・期末にどれだけの在庫水準を持っているかです。図3に期首(年度初め)・期末(年度末)の仕掛品たな卸高を示しています。期末に在庫として滞留した仕掛品期末たな卸高(平成19年度の場合、926.9億円)は、翌年度の仕掛品期首たな卸高として引き継がれます。
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一般的に「在庫が少ない方が良い」といわれますが、では、在庫水準が低いことはどういうメリットがあるのでしょうか?在庫をそのままにしていてはもちろん売上にはつながりません。製造した製品をなるべく早く販売すること、すなわち、在庫の滞留日数をなるべく少なくして顧客に販売することが必要です。逆に言えば、売上を増やすためには、できるだけ在庫を早く販売にまわす、すなわち、在庫回転率を短くすることが必要です。
在庫の回転率という点でみれば、トヨタは突出しています。棚卸資産を売上高で割って365(日)を掛けた棚卸資産回転日数(=在庫の滞留日数)は、07年度は4.2日、08年度は3.5日、すなわち、08年度の場合、原材料から販売に至るまでわずか3.5日で、同業種の日産の場合でも同時期で6.1日かかっており、いかにトヨタの在庫の効率が良いのかがわかります。
在庫滞留日数を短くするために、トヨタが取り組んでいるアプローチこそが世界的に有名なトヨタ生産システム(TPS)ですが、そのなかで在庫の効率化に寄与しているのが「生産の平準化」です。平準化とは、生産量、品種、製造時間をすべて平均化して製造するアプローチです。製造に凸凹があると、生産量・人員の調整が必要で、余計な負荷が発生します。一方、トヨタは生産の平均化によって、負荷を平均化し、適正な人数、製造機械の維持を実現します。生産量、品種、製造時間を平均化できれば、それに合わせて、部品の調達も同様に平均化し、それが、在庫の効率化につながります。
文面で見ると、至極当然で簡単そうに見えますが、5万点にものぼる部品を組み立てて、完成させることを平均化することは極めて困難なことです。TPSが称賛されているのも、こうした平準化して徹底的に無駄を省く仕組みができているからとも言えるでしょう。
このトヨタのTPSは在庫削減の代表的な例ですが、他にもいくつか例はあります。有名なところでは、米国大手コンピュータメーカーのDELLです。DELLの場合、顧客がホームページ上で自分が望むカスタマイズPCを注文したら、注文を受けてから、その部品を発注し、それを即座に組み合わせて出荷するダイレクト・モデルになっています。その際の在庫削減のポイントとして、以下を指摘しています。
「ダイレクト・モデルを支えるコンセプトにおいては、情報を得ることがすべてで、備蓄は徹底的に排される。情報の質は、必要な資産の量(この場合は過剰在庫)と反比例する。顧客のニーズに関する情報が少ないほど、大量の在庫が必要になる。優れた情報を握っていれば、(つまり、人々が何をどれくらい欲しがっているかを正確に知っていれば)、必要な在庫はずっと少なくて済む。」(『デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える』 日経ビジネス人文庫p137より)
トヨタとDELLに共通する在庫削減の戦略は、今後売れると予想される製品を大量生産するのではなく、顧客のニーズに合わせて生産すること。これはつまり、顧客ニーズにあわせて即座に生産することができれば、自然と在庫が削減されるとも言えるでしょう。
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