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SaaSの認識時点と検討時点でユーザーのメリット意識に違い
では、実際にユーザー企業はSaaSに対して、どのようなメリットを感じているのだろうか。SaaSのメリットとして、以下の6項目をあげ、どのような点を導入のメリットとして捉えているのだろうか。下記の6項目のメリットについて「非常にそう思う」を6、「まったくそう思わない」を1とする6段階評価を実施し、6段階で5と6の高得点をつけた回答比率を比較した。
・ライセンス費用が圧縮できる
・開発期間や費用を削減できる
・ハードウェア関連コストが削減できる
・運用管理から開放される・軽減される
・使わないアプリケーションの放置などムダがない
・情報システム部門のサポートが不要/低減する
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SaaSの認識時点では、「使わないアプリケーションの放置などムダがない」が35%で最も高く、次いで「運用管理から開放される・軽減される」が28%となった。本来、SaaSのメリットとして考えられる運用管理の軽減や開発期間・コストの削減は、認識時点ではまだそれほど強いアピールとはなっていない。
自社に導入するとした検討時点で、再度同じ項目について聞くと、この時点では、「運用管理から開放される・軽減される」が25%、「ハードウェア関連コストが削減できる」が23%、「情報システム部門のサポートが不要・低減する」が20%と、分散傾向にある。これは、業種や規模による違いがより鮮明になってくるためとみられる。
図1 ユーザー企業がSaaSに求めるメリット
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※クリックで拡大 Source: ECR, 2008 |
また、SaaS形式で導入するアプリケーションが、どのような種類のアプリケーションなのかによっても、ユーザー企業の受け入れ方は異なるとみられる。セキュリティ系のアプリケーションのように、管理の手間がかかるが社内では必要不可欠で重要なシステムであるもの、ERPやCRMのように、会社の事業戦略の根幹に関わるような戦略的システムとなる位置づけのものなど、内容によって、伝えるべきメリットは変わってくる。
ターゲットとなるユーザー企業の業種や規模と、そこで導入されるアプリケーションの種類によって、SaaSを導入することで得られるメリットへの期待感が異なるため、ここでもターゲットとして想定するユーザー企業の傾向を把握することが重要となる。
SaaSと従来のシステム構築をどのようにポジショニングするか
企業において、アプリケーションを導入する場合、新規にSaaSを導入する場合もあるが、すでに何らかの自社構築システムを構築し、稼働させているケースもある。すでに何らかの自社構築システムが稼働している場合、そこにSaaSを導入するとなると、既存システムとの連携や、置き換えという点で、新たなSaaSの導入は困難と考えるユーザー企業もある。そのため、既存システムの普及が進んでいる業種や企業規模、アプリケーションにおいては、今後SaaSが普及するには若干ハードルが高いとみる向きもある。
アプリケーションの例でみてみると、財務・会計では、SaaSを認知している17万8,400社のうち、すでに64%の企業では、財務・会計のシステムを構築、利用している。一方でSaaSの利用は2%と少ない。しかし、システム構築企業では、財務・会計システム構築の伸びは2007年から2008年で1%に留まるが、SaaSでは3倍の伸びが見込まれる。財務・会計のような従来から利用されているアプリケーションの場合は、新規利用としてのSaaS導入の薦めが効果的とみられる。
その一方で顧客管理(CRM)のような比較的新しいアプリケーションでは、システム構築企業が15%、SaaS利用企業が8%とどちらもまだ利用は始まったところで、2008年にかけての伸び率もそれぞれ47%、62%と高い。ただ、業種や企業規模によって、システム構築型、SaaS利用型の傾向の違いがみられる。
SaaSの場合は、必要なユーザー数に応じて部分的、試験的な導入から始めることができ、初期導入コストも抑えられるため、すでに自社構築システムが稼働している企業においても、支社や部門などの単位での導入が可能となり、必ずしもマーケットがないということにはつながらない。むしろ、既存システムとのコストの違いやメンテナンス不要の管理の容易さなど、SaaSのメリットがより伝わりやすいという側面も考えられる。
ここまではユーザー企業の状況を述べてきたが、提供側の立場からみても、なかなかSaaSの拡販が進まないという現実がある。SaaSは、サブディスクリプション形式(月ごとの定額制など)をとっているために、投資の回収に時間がかかるという課題や、システムインテグレータがこれまでカスタマイズで利益をあげていた部分の利幅が低くなるなど、主に収益性の問題である。
しかし、ユーザー動向をみると、収益性の問題に関して解がないわけではない。確かに一括で回収するパッケージやシステム構築の販売と比べると、SaaSは3~4年をかけての回収となる。その代わり、SaaSを導入する企業では1社あたり4~5種類のSaaSアプリケーションを活用する傾向があり、SaaSベンダーはアプリケーションを数種複合して提案することによって、収益性の改善につなげることができるとみられる。
また、システムインテグレータにとっては、これまでのシステム構築というニーズが、SaaSによってなくなるわけではなく、SaaSとシステム構築は共存していくとみる方が順当である。CRMのような比較的新しいアプリケーション分野では、SaaSとパッケージが競合する可能性はあるが、それ以外の分野では極端なスイッチが起こるとは考えにくい。たとえば、会計処理や勤怠管理などを表計算ソフトで行っていた企業の場合などが、新規としてSaaSのアプリケーションを活用するだろうという見方の方が適切である。システムインテグレータにとってみればSaaSは、新規の顧客を獲得するためのツールと位置づければ、失うものはない。つまり、SaaSと従来のシステム構築をどのようにポジショニングするかということが、SaaSベンダーにとってもSaaSを提供するシステムインテグレータや販売店にとって重要なポイントである。
イーシーリサーチ
ITコンサルティンググループ
IT業界で10年以上の経験を持つアナリストグループ。サーバー、ソフトウェア、ネットワーク、データセンターなどのビジネス分野、および携帯電話、パソコンなどのコンシューマ分野の双方において、ベンダー競合状況、ブランド価値、ユーザー動向、マーケット動向などについて幅広く調査を実施している。コンサルティング分野としては、IT製品・サービスを中心として、個別企業の新製品の受容性コンサルティングや、営業戦略の立案を主に手がけており、現在は、日本市場向けの新しいSaaS営業手法を提案している。今回のSaaS市場戦略レポートは、日本でのSaaS事業立ち上げのためのコンサルティング基礎資料として作成している。
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