- 2024/11/28 掲載
メタQuest 3Sは結局「買い」なの?Quest 3との「スペック格差」を実機で検証(2/2)
「視野角の狭さ」は気になるのか
では、液晶と同じく性能を左右するレンズの形状については、Quest 3SとQuest 3でどう異なるのだろうか。Quest 3のレンズは薄くてスイートスポット(焦点の合う範囲)が広いパンケーキレンズなのに対し、Quest 3SはQuest 2と同じフレネルレンズを使っており、Quest 2用のレンズアダプターがそのまま使える。
Quest 3の視野角が水平110度、垂直96度なのに対し、Quest 3Sは水平96度、垂直90度。Quest 2は水平90度、垂直90度だ。横方向の視野角はQuest 3SがQuest2より広い。これは3機種を同じ画像で比べてみても明らかに感じる差だ。メタへの取材でも、Quest 3Sのプロダクトマネージャーは「(Quest 3SとQuest 2の表示系は)よく似た技術」と表現し「同じ」とは言わなかったので、Quest 3SとQuest 2の表示系は完全に同じではないのだろう。
Quest 3SとQuest 3におけるこの視野角の差は、アプリケーションによっては使い勝手に差が出る場合がある。ただ、致命的な差ではなく、Quest 3Sで首を上下左右に振ればカバーできる程度のものだ。
また、Quest 3のパンケーキレンズは、Quest 3Sのフレネルレンズに比べて歪みが少ないのも利点となるが、両機種ともGPUで歪みに合わせて画像を補正している。Quest 3とQuest 3Sに採用されているSoCは、Quest 2世代に比べてGPUとAIのパワーが強力だ。Quest 3Sの場合はソフトウェアによるチューニングによって、少ない歪みと高い解像度感を保っているのかもしれない。
パンケーキレンズは、物理的な利点として本体を薄くすることも可能にする特徴がある。Quest 3はQuest 3Sの4324mAhよりも大容量の5050mAhというバッテリーを搭載しているにもかかわらず、本体の厚みは1.5cmほど薄い。
ただし本体重量はほぼ同じで、装着感はQuest 3Sのほうが不思議に軽く感じる。また公称バッテリー駆動時間もQuest 3Sのほうが約18分長い。
深度センサー非搭載でも「問題ナシ」と言えるワケ
Quest 3SとQuest 3における3つ目の違いが、深度センサーの有無である。深度センサーはヘッドセットから対象物までの距離を測るもので、MRで部屋の形状や家具の配置を素早く正確に計測するための重要な技術であり、メタ製品ではQuest 3で初めて搭載された。
Quest 3Sは深度センサーの代わりに左右1基ずつ赤外線フラッドLEDが搭載されている。メタによると、強い赤外線を照射して反射をSoCのAIパワーで計算することで、深度センサーがなくても同等のMR体験を提供できるという。
実際に筆者が使ってみると、Quest 3SのMR性能はQuest 3とまったく変わらなかった。さらに赤外線LEDを搭載したことで、Quest 3Sは真っ暗な場所でもハンドトラッキングができる。これは暗い寝室でベッドに寝たまま動画鑑賞するのに便利だ。Questシリーズは、Amazon Prime、U-NEXT、DMM.comの動画プレーヤーが利用でき、Netflix、Hulu、YouTubeはWebブラウザから利用できた。
Quest 3Sは仕事でも使える?
これらの違いを踏まえた上で、Quest 3Sは仕事に活用することができるのかも見ていきたい。Quest 3が人気の理由として挙がるのがPCの仮想ディスプレイとして利用できることだ。同機種では、「Immersed」などのアプリを使うことで、目の前の空間にWindowsやMacの巨大な仮想ディスプレイを表示できるほか、仮想マルチディスプレイも可能だ。
では、解像度や視野角のスペックが劣るQuest 3Sでは、仮想ディスプレイは利用できないのだろうか。
結論を言うと、Quest 3Sでも可能である。実はこの原稿もQuest 3S+Immersedの仮想ディスプレイを使って作成している。Quest 3に比べると微妙に解像度が低く感じるが、それよりは視野角の差が大きい。とはいえ首を動かせばカバーできるので実用の範囲内だと感じた。
Apple Vision Proは、外部アプリを使用せずにMacの仮想画面を表示する機能を備えているが、Quest 3/Quest 3Sもマイクロソフトの協力により、Windowsの仮想画面を表示する機能が今後OSレベルで搭載されるとアナウンスされている。
Quest 3Sを仮想スクリーンとして使用する場合、解像度や視野角より問題なのは、ヘッドセットの装着感と重さ、そしてバッテリーの持続時間だろう。長時間、仕事に使うにはこの3つを解決する必要がある。
装着感は別売りのストラップを使用することで大きく改善する。Amazonで3,000円台のサードパーティ製ストラップでも問題はない。さらに接顔アダプタもサードパーティ製に変えたほうが快適になる。
バッテリー持続時間は、バッテリー内蔵型ストラップでも改善するが、ただでさえ重いヘッドセットがさらに重くなってしまう。オススメは長いUSB Type-Cケーブルで外部電源を使用するか、首掛け型や腰に付ける外部バッテリーを使用することだ。
仕事以外にも使える「ある用途」
こうした活用例の一方で、そもそもQuestシリーズはVRゲーム機のイメージが強いため、ゲームをやらないビジネスユーザーは縁遠く感じているかもしれない。しかし、Quest 3Sは上述した仕事での利用に加えて、健康や趣味といった幅広い用途にも使える。具体的には、たとえばフィットネス、スポーツ、アート、音楽のトレーニングなどである。筆者は子供のころは不器用で身体も弱く、スポーツ、アート、音楽はすべて鬼門でコンプレックスだった。大人になってから少し経験が広がったが、Meta Quest のVR/MRアプリのおかげで一気に世界が広がった。
VRの学習効果の高さについては、すでに大学や企業で多数の研究成果があり、没入感や繰り返し体験できること、インタラクティブ性などが学習における利点と言われている。実際に筆者も使用していて、その学習効果を強く感じる。
フィットネス分野では、アプリの種類が多くメタも米国では買収してきた自前のサービス『Supernatural: Unreal Fitness』を提供しており力を入れている。特に多いのは有酸素運動を行うアプリで、『LES MILLS DANCE XR』のようにインストラクターが現れて指導するタイプと、『FitXR』のように飛んでくる目標を叩いたり避けたりするリズムゲーム型がある。リズムゲームとの違いは失敗してもゲームオーバーがなく音声で励ましてくれることだ。
一方、スポーツ分野では格闘技と球技のアプリが多い。ボクシングで打ち合う『The Thrill of the Fight』は本格的で汗びっしょりになれる。球技は『Eleven Table Tennis』で苦手だった卓球ができるようになった。『First Person Tennis』『GOLF+』も実際のスポーツに近い体験ができる。
純粋なスポーツではないが、『リアルVRフィッシング』(釣り)と『MiRacle Pool』(ビリヤード)も再現性が高い。
そのほかに、お絵描き系のアプリも多数あるが、すでに絵が描ける人向けのものが多い。筆者は油絵を学べる『Vermillion』を始めたばかりだが、楽しく油絵の腕をあげられそうだと感じた。
そして、音楽系のアプリでは、仮想キーボードでピアノを練習できる『PianoVision』が代表だ。パートごとに繰り返し練習する機能や暗譜させる機能があって、経験ゼロから本当に両手で弾けるようになってくる。『Paradiddle』も本格的なドラム練習が可能で、フットスイッチをUSB接続するとバスドラムやスネアのペダルも練習できる。『Tribe XR』は実在するDJ機器を使ったDJプレイを学べる。また、11月にはiPhoneなど各プラットフォームで人気のDJアプリ『djay』のMeta Quest版も発売された。
なぜ「楽しみながら成長」に最適なのか
このように、Quest 3/3Sのアプリは、単に映像だけでなく、高品質な空間オーディオとコントローラーの絶妙な振動(ハプティクス)によって、本当にスポーツや絵筆や楽器を使っているような体験を実現している。VR/MRは絵空事ではなく、もはや現実になっていて、そこで実際に体験し成長できる時代なのだ。成長は人間にとって大きな娯楽で、ジャンプ漫画もハリウッド映画も登場人物の成長が必ず描かれる。学習による自分自身の成長もまた娯楽だ。ユーキャンやUdemyのような学習系サービスが花盛りなのもそこに理由がある。
筆者はすでに60歳を過ぎているが、VR/MRを使ってさまざまな分野で自分の成長を楽しんでいる。Quest 3、3Sのいずれを選ぶとしても、VR/MRを活用することで自分の新しい成長を楽しんでみて欲しい。
1) | IFIXIT「Vision Pro の分解 パート2: ディスプレイの解像度は?」 |
2) | VRX「The difference between pancakes lenses and current fresnel lenses found on vr headsets」 |
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