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- 2007/06/04 掲載
【戦略的マーケティング/第3回】伝統的マーケティングの限界-新製品発想法-(2/2)
朝食にシリアルを食べる人も多いだろうが、このシリアルには様々なバリエーションがある。チョコレート味などの各種フレーバーを備えたもの、ビタミンやカルシウムなどが添加されたもの、さらにはカットされたフルーツが入ったものなどだ。ところが、従来のシリアル市場の枠にはおさまらない「シリアルバー」と呼ばれる製品がある。この製品は、シリアルの本来的な価値である「ミルクと一緒に食べる栄養豊富な食べ物」という範囲からは明らかにはみ出ている。むしろ、自由に持ち歩くことのできるキャンディーバーの範疇に含めた方が良さそうである。市場細分化とターゲティングという垂直的マーケティングの枠組みによって、この「シリアルバー」が生まれる道筋を説明することは難しいが、水平的マーケティングの枠組みを用いると容易に説明することができる。
水平的マーケティングとは、何らかのギャップを意図的に引き起こし、そのギャップを埋めるような変更を繰り返しながら解決の糸口を探り当てるという思考法である。例えば、「花→枯れる」という一般的な流れに、「花→枯れない」というギャップを引き起こし、両者のギャップを埋めるための解決策を模索することになる。
(図1)水平的マーケティング
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この場合には、素材を変更することにより、造花といったアイデアで連結(ラテラル・シンキングにおける解決点)へとたどり着く。「シリアルバー」の事例で説明するならば、「シリアル→朝食で食べる」から「シリアル→自由に持ち歩く」というギャップを引き起こし、そこから「持ち運べるバータイプのシリアル」という連結で解決へと導かれる(図1)。
もちろん、ギャップは簡単に埋めることができない。また埋めることができたとしても、顧客にとって意味があり、大きな価値をもたらすとは限らない。論理的にストーリーを展開していく垂直的マーケティングに対して、ラテラル・シンキングではギャップを引き起こし、次々にギャップを埋めるような拡散的なストーリーが展開される。水平的マーケティングと呼ばれるのはこのためである。なお、ギャップを生み出す技法として、代用、結合、逆転、強調、並べ替えの5 つが提案できる(図2)。
(図2)ギャップを生み出す5つの技法(納豆の場合)
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ミツカンの「金の粒におわ納豆」は、においの少ない納豆菌を用いることで実現された製品であり、「強調」を用いることで説明できそうである。水平的マーケティングでは、分析というよりも連想が重視され、創造的な視点や感性的な視点が前提となっている。そこで展開される議論は絞り込まれるというよりは拡散する傾向にあり、特定市場に縛られることがなく、ユニークな切り口をもたらしたり画期的なアイデアをもたらすことができる(図3)。
(図3)垂直的マーケティングと水平的マーケティング
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また、ラテラル・シンキングに基づいた水平的マーケティングが有効に機能すると、既存市場とは別の市場が生み出されやすい。「シリアルバー」においては、朝食用シリアルという既存市場における消費者ではなく、キャンディーバーやスナック菓子からスイッチした消費者や、ニーズが満たされていなかった消費者などで構成される新しい市場が生み出されたことになる。
水平的マーケティングを理解したうえで、もう一度、皆さんの業界を眺めてみてほしい。経営者側も消費者側も、既存枠組みの中で製品を捉えていないだろうか。ラテラル・シンキングを持ち込むことにより、コモディティ化が進み成熟しきっていると思いこんでいる業界でも、新たなビジネス・チャンスが開ける可能性がある。
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