- 2021/05/21 掲載
アングル:活気づくアルトコイン投資、ビットコインのシェア奪う
アルトコインのうち、イーサ(イーサリアム)のように将来の金融システムの根幹を担おうという野心を秘めたものも一部にあるが、ドージコインなど他の多くはそうした遠大な目標などなく、決済やビジネスに使われることもほぼない。
一方、アルトコインに資金をつぎ込んでいる個人投資家の一団にとって、各コインを巡るストーリーや、大損につながりかねない価格変動率の大きさは、しばしば重要な意味を持たない。むしろ買い手が目を向けるのは、手っ取り早くもうける機会があることや、少なくともつかの間の楽しみが得られるという点だ。
<面白ネタ>
オランダ・ハーグの電気工学技師、デミ・スタールさん(27)は、全部で約8000ドル相当になる幾つかのアルトコインを保有している。これまでの投資には、30ユーロ(約4000円)で購入した「シバイヌ」も含まれる。シバイヌはドージコインから派生し、今月に入って一時、仮想通貨の取引高トップ20に躍進した。
スタールさんは「シバイヌはドージコインのような『面白ネタ』コインだと思う」と語り、自分が利用する交換所に上場されたのを数日前に知ったので「これは面白い。ぜひ買おうって感じ」だったと振り返る。この取引で元手が2倍になったという。
ただ、アルトコインは、そうした愉快さや利益が期待できる半面、ボラティリティーに悩まされる。つまり投資家は多額の「持ち出し」になる恐れもある上に、ビットコインと異なり、多くのアルトコインは交換所では現金化が難しく、他のデジタル通貨との交換しかできない。
それでも米調査会社のコイン・メトリックスによると、投資家がアルトコインに押し寄せた結果、仮想通貨市場におけるビットコインのシェアは今年、70%から45%に低下している。大手交換所バイナンスにおけるビットコインの売買高のシェアは半減して23%になったというデータも、クライプトコンペアが提供した。
ビットコインの時価総額は依然として約8000億ドルに上り、他の仮想通貨に比べて決済手段としてより幅広く受け入れられているのは確かだ。これを猛追しているのが2番目に取引規模が大きいイーサで、「P2P融資(インターネットを介した個人間の貸し付け)」を手掛けるプラットフォームによるイーサのブロックチェーン技術利用が広がったのに伴い、時価総額は今年になって4倍に膨らみ、3800億ドル前後に達した。
こうしたイーサの台頭をきっかけに、手元資金が豊富な個人投資家の間でアルトコインのブームに拍車が掛かった。これはロビンフッドのような投資アプリの普及を促したり、ソーシャルメディアでの情報交換による投資を通じたゲームストップなどいわゆる「ミーム株」の高騰をもたらしたりした大きな潮流の一部だ。
昨年3月以降、暗号資産投資の規模を2倍にしたリスクコンサルタントのアマル・ライさん(25)は「(暗号資産市場)は24時間/週7日稼働しているため、働いている人にとってより利用しやすい」と指摘した。
<金儲けのにおい>
このほかに今回、ロイターが取材したアルトコイン投資家6人はいずれも20代男性。レディットやツイッター、TikTok(ティックトック)といったソーシャルメディアから集めた情報で投資判断を下したと答えた。
イーサは支持者から金融の枠組みを一変させるとの期待を寄せられ、取引が拡大している。だが、個人投資家がソーシャルメディアのトレンドを参照にする傾向が強まった結果、そうした明確な将来像がないアルトコインの価値も膨張している。
ドージコインを例に取ろう。この仮想通貨は2013年に冗談で始まったもので、モチーフは「ミーム(ネット上で拡散された画像)」で使われた柴犬だ。それでも価格高騰は止まらない。
年初来の上昇率は1万%を超え、時価総額が600億ドル強と仮想通貨トップ5の一角に食い込んでいる。その半面、決済利用は全く広がっていないし、無制限に供給されることで、希少性があるビットコインに対して投資家が感じるインフレヘッジとしての魅力も備えていない。
その代わりにドージコインの勢いを強めてくれたのは、米電気自動車(EV)大手・テスラのマスク最高経営責任者(CEO)という有力な支援者のつぶやきだ。マスク氏が先週、ドージコインの開発者と取引の効率を高める取り組みを進めていると述べると、価格は約25%も跳ね上がった。
しかし、冒頭に登場した個人投資家のスタールさんは最近、ドージコイン投資で大きな損失を被った。「数週間前ほど前、単に面白そうだからという理由で購入し、数百ユーロを投じたが、うまくいかなかった。悪いタイミングで買ってしまった」という。
ドージコインから派生したシバイヌは、今月11日までの4日間で2000%超も値上がりした。コイン1枚当たりの価格水準は1ドルの何十万分の1ほどで、実用性もほとんどないが、シバイヌのウェブサイトは「分権化された自然発生的なコミュニティーづくりの実験」と、うたっている。
バンクーバーで配管工の仕事をしているオースティン・アレクサンダーさん(24)にとって、これは金儲けのにおいがする言葉だ。約4週間前にシバイヌの購入を始めたアレクサンダーさんは「裏側にある技術は興味深いが、私を引きつけるのはお金だ」と言い切った。
クライプトマーケットキャップによると、シバイヌの時価総額は過去1週間で6割減少したが、まだ、約60億ドル前後で推移している。
(Tom Wilson記者)
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