• 2020/11/18 掲載

アングル:主要中銀のYCC導入での足並み一致、秒読みに

ロイター

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[ロンドン 17日 ロイター] - 主要中央銀行は、新型コロナウイルスのパンデミックから経済を立ち直らせる政策手段の検討作業を一段と進め、イールドカーブ・コントロール(YCC)の導入で足並みをそろえようかという段階に達しつつある。

企業や消費者がお金を借りる際の金利の指標となる国債利回りを適切に制御できれば、実体経済全体の資金調達コストに影響を及ぼすことができる。

もちろん主要中銀はどこも、既に実質的なゼロ金利ないしマイナス金利政策や積極的な債券買い入れ(量的緩和=QE)を通じて利回りを押し下げている。ただ明示的なYCCとは、例えば5年債の利回りに一定の上限を設定し、維持するために必要なら中銀がこの年限の国債を買い入れるという仕組みを導入することだ。

YCCの提唱者は、特に米連邦準備理事会(FRB)とイングランド銀行(英中央銀行、BOE)がマイナス金利採用に熱心ではない点から、政府の借り入れコストを抑制するために中銀がたどる道筋はYCCだとの見方を強めている。

ロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメント(RLAM)の金利・キャッシュ責任者クレイグ・インチーズ氏は「利回りが連鎖的に跳ね上がれば、中銀が再び登場し、債券買い入れ拡大かYCC導入かはともかく、債券市場を操作しようとするだろう」と述べた。

経済の見通しがわずかでも明るくなれば利回りがいかに急上昇してしまうかは、先週米製薬大手ファイザー<PFE.N>が新型コロナウイルス感染症ワクチンの高い有効性を示す治験結果を公表し、米10年国債利回り<US10YT=RR>が一気に14ベーシスポイント(bp)と1日として3月以来の大幅な上昇を見せたことでもよく分かる。

来年になって経済活動がもっと改善すれば利回りが上昇する恐れは十分にあり、今度はそれがまだ足場の弱い景気回復の脅威になりかねない。そして既に大規模な債券買い入れの現在の枠組みを拡大するだけでは問題解決につながらないのではないか。

ピクテ・ウェルス・マネジメントのシニアエコノミスト、トーマス・コスターグ氏は「YCCのメリットは、実体経済に調達コストに関する明確な保証を与えられることで、企業からするとあらかじめ決まった金利で投資できることが、ある程度確実になる」と指摘した。

例えばオーストラリアでは銀行や企業が通常、金銭貸借に3年物金利を利用しているため、中銀はイールドカーブの残存3年ゾーンの買い入れを通じて、同ゾーンの目標水準を0.1%前後に設定している。

<功罪両面>

FRBにとってYCCは全くなじみがないというわけでもなく、1940年代には政府の戦費調達コストを抑えるために用いた前例がある。先行する日銀は2016年、豪中銀も今年3月に採用した。

ただFRBとBOEは今のところ、YCCを議論しているが、正式な導入に至っていない。FRBは現時点ではYCCに関して「そこそこのメリットしかない」という評価だ。

実際日本では、YCCは功罪両面を持つ。実体経済にとって借り入れコストを押し下げる効果を発揮しているものの、銀行収益がその犠牲になっているからだ。

FRBのようにフォワードガイダンスを通じて既に利回りをうまくコントロールできている中銀が、今更YCCを導入する必要があるのかといった声も聞かれる。

コモンウェルス・バンク・オブ・オーストラリアの債券・通貨戦略責任者マーティン・フェットン氏は、オーストラリアでは中銀が3年ゾーンに債券買い入れを集中させた結果、与信環境を改善させないまま、流動性だけが枯渇してしまったと話す。

それでもここ数カ月で、YCC導入の強力な根拠が浮上してきた。中銀の国債保有比率が過去最高に達する世界では、的を絞った債券買い入れが市場の需給ひっ迫を和らげる一助になり得るという理屈だ。

中銀がどこか特定の年限に買い入れを絞れば、他の年限の買い手には十分な債券が確実に供給される。RLAMのインチーズ氏は「YCCは0-10年ゾーン(の利回り)を抑え続ける可能性がある半面、それより長いゾーンは経済成長が改善するとの期待を背景に若干上昇する。これは年金基金にとって好ましいシナリオで、中銀の念頭に置かれるだろう」と説明した。

<タイミング>

ではYCCが採用される時期はいつになるのか。長期ゾーンの利回りが突然高騰する、いわゆるイールドカーブのスティープ化局面が1つのタイミングかもしれない。

FRBは短期金利をゼロ近辺に安定させているが、市場は米国の住宅ローン金利や企業融資、地方債の発行利回りの基準となる10年債利回りに着目している。ピクテのコスターグ氏は、足元で0.9%前後の10年債利回りが1.5%に接近すれば、FRBはYCCを導入すると予想する。

19カ国で構成するユーロ圏の場合、状況はもっと複雑になる。とはいえ欧州中央銀行(ECB)はドイツと南欧諸国の国債利回りの差(スプレッド)を重視するべきだとの声が多く、これは実質的にYCCの一種となる。

アクサ・インベストメント・パートナーズのチーフエコノミスト、ギレス・モエク氏は欧州でもYCCが採用される確率が高いとみる市場関係者の1人で、ECBのラガルド総裁が昨今の危機に対して持続的で強力かつ的を絞った政策を打ち出すことを訴えている点を理由に挙げる。

モエク氏によると、ECBが公然と域内政府への支援を表明し、域内政府による財政赤字の手当てが容易になる道が確保されれば、欧州はYCC導入に向かうだろうという。

(Dhara Ranasinghe記者)

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