• 2020/11/05 掲載

コラム:選挙リスク飲み込む緩和マネー、次はクリーン銘柄流入か

ロイター

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田巻一彦

[東京 5日 ロイター] - 大接戦の米大統領選は現職の共和党候補トランプ氏が訴訟も辞さない構えを見せているが、マーケットは株高で反応している。米欧日の中銀による大規模緩和で供給されたマネーが、選挙で生じたリスクを飲み込んだ格好だ。政府・日銀が懸念していた選挙後の円高急伸シナリオは、大幅に後退したとみていいだろう。

今のところ優勢な民主党候補のバイデン前副大統領が、来年1月20日に大統領に就任すれば、クリーンエネルギー政策に注目が集まる可能性が高い。電気自動車(EⅤ)や新エネルギー関連の銘柄にマネーが流入し、日本では日本電産<6594.T>などに脚光が当たりそうだ。日本のエネルギー政策では、水素の活用が重視される可能性が高く、その関連企業の動向も見逃せない。

<法廷闘争辞さないトランプ氏>

開票終盤でリードを許すトランプ陣営は、ウィスコンシン州での再集計を要求。ミシガン州とペンシルベニア州で票の集計停止を求めて提訴した。トランプ大統領は4日、ホワイトハウスで支持者を前に「最高裁に行くことになるだろう」と述べ、法廷闘争に持ち込む意思を明確に示した。

投開票直前のマーケットでは、法廷闘争に持ち込まれて当選者確定まで時間がかかる事態に直面した場合、「不透明感」を嫌気してリスクオフによる株安を心配する声が少なくなかった。

ところが、4日のニューヨーク市場ではダウ<.DJI>が前日比367.63ドル(1.34%)、ナスダック<.IXIC>は3.85%の上昇となった。その理由として、1)法廷闘争は織り込み済み、2)米上院選での共和党優勢を背景にした米長期金利<US10YT=RR>の低下、3)選挙後に決まる経済対策への期待──などが挙げられていた。

ただ、これらは「後付け」の要因に過ぎない。結論から言えば、米欧日の中銀による大規模緩和の結果、あふれ出るマネーが米株式市場に流れ込んでいる現象が背景にある。緩和マネーが大統領選のリスクを飲み込んだ構図が鮮明になったと指摘したい。

日欧でマイナス金利、米国でゼロ金利政策が実行され、リターンを確実に得られる市場として、米株式市場が注目されていることをまざまざと見せつけられた。

<円高回避と株高の到来>

これを日本から眺めるとどうなるか。政府・日銀内にとっては、米大統領選の勝者確定までに時間がかかった場合、世界のマーケットがリスクオフになり、円高が進展して日本株が崩れる展開が、「最も避けたい」シナリオだったとみられる。日銀の切れるカードが残り少なくなっている中で、ドル買い/円売り介入を米国当局が認めるのかどうか不透明だったからだと筆者は推測する。

ところが、4日のニューヨーク市場と5日の東京市場を見ていると、リスクオフによる円高襲来の可能性は当面、大幅に低下したと判断できそうだ。政府・日銀にとっては、コロナ対策を念頭にした政策対応に「専念」する時間的な余裕が生まれた。

また、新型コロナウイルス禍による経済的な打撃を相対的に受けやすい新興国から、コロナ感染者の数が少ない日本へと資金をシフトさせつつある欧米の投資家が、増えているということもある。

米国発のリスクオフと円高が回避されれば、日本株が米国株とともに注目されやすくなると予想する。5日の日経平均<.N225>は2万4000円台を回復したが、年内に上値を伸ばしていく可能性が高まってきたとみていいのではないか。

<日本でも新エネ関連にマネーシフトも>

では、今後の注目ポイントはどこになるのか。日本時間の5日時点で優勢になっているバイデン候補の当選が確定した場合、石油・石炭産業重視のトランプ政権から、クルーンエネルギー重視へと大きくかじが切られ、クリーンエネルギー関連への注目度が一気に高まる展開を予想する。

バイデン氏の選挙公約では、全ての自動車がガソリン車から電気自動車に切り替わるように排出ガス規制を厳格化させ、公用車全部をゼロエミッション車に替えることを明記。太陽パネル発電や洋上風力発電の増加などで温室効果ガスの削減に努め、こうした温暖化対策に2兆ドルを投じると主張してきた。

日本国内を見渡すと、クリーンエネルギー関連で先行する欧州や中国に後れを取っている企業が多く、日本の弱点にすらなりつつある。

その中で、日本電産は永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)の強いリーダーシップによって、EVの基幹部品であるモーターにインバーターなどを組み合わせた駆動システムの販売が好調で、世界シェアの拡大へ強気の計画を立てている。こうした企業が世界的に注目され、物色されていく展開が予想される。

菅義偉政権が打ち出した、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにするという「カーボンニュートラル」政策の先行きにも関心が集まりそうだ。主要先進国や中国などと比べ、この分野で立ち遅れてきただけに「伸びしろ」は大きいとも言える。

特に注目されそうなのが、水素をめぐる対応だ。燃焼させても二酸化炭素(CO2)を排出せず、燃料電池にも使用でき、欧州などでは実用化の動きが先行している。これまでは、政府の研究・開発への投資額や補助金はかなり小規模に抑えられてきたが、梶山弘志経済産業相も水素の活用に積極的な姿勢を見せ、菅政権ではアクセルが踏まれようとしている。

水素関連に投資する企業の動きに対しても、欧米の投資家が注目しそうであり、日本の投資家も、値上がりしてから気付くのではなく、先行したリサーチが不可欠だろう。

菅政権ではDX(デジタルトランスフォーメイション)ばかりに目が向きやすいが、新エネルギー関連でも成長力を高める政策が出てくると予想する。

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