- 2020/11/04 掲載
情報BOX:急きょ上場延期、中国アントの実態
◎アントとは
アリババが2004年に始動した電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」がアントの起源だ。誕生間もなかった中国の電子商取引市場において、オンライン決済に対応するサービスとして始まった。
主に中国で展開するアリペイの年間取扱高は現在、米マスターカードや米ビザを上回る。しかし今では人々の暮らしのためのツール、もしくは決済関連アプリといった範ちゅうを大きく超えたサービス展開へと発展した。
アントの与信事業は、消費者および小規模事業者の借り入れ需要を銀行に橋渡しして手数料を稼ぎ、自らのバランスシートのリスクは最小限に抑えるものだ。
アントの消費者向け融資残高は6月末時点で1兆7000億元(2540億ドル、約26兆6300億円)と、中国の預金受け入れ金融機関による短期消費者融資全体の21%を占める。しかし、IPO目論見書によると、アントのそうした融資のうちバランスシートに載っているのはその2%にすぎない。
アントはミューチュアルファンドや保険会社、銀行、証券会社など中国の資産運用主体とも提携し、アリペイ利用者に投資商品を提供している。看板商品のYu'e Bao(余額宝)は、人々が余裕資金をマネー・マーケット・ファンド(MMF)に投資できるツールだ。余額宝が扱った最初のファンドはかつて、世界最大のMMFだった。
アントと米バンガード・グループが運営するロボアドバイザーが、安い手数料で投資家にファンドの選び方を指南する。また、アントの「インシュアテック」事業は、出荷遅延から事故に至るまで、あらゆる事象をカバーする保険商品を販売している。
◎フィンテックならぬテックフィン
アントは人工知能(AI)などの技術を決済と融資だけでなく、保険や財テクの商品にも活用。自らを主に金融機関向けのテクノロジー提供企業と位置付けている。
アリババの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏はアントを「フィンテック」ではなく、金融よりテクノロジー主体の「テックフィン」企業と呼び、金融機関よりはるかに高いIT企業並みの企業価値評価を享受している。
しかし中国当局はアントをしっかり金融セクターの企業と見なしている。中国人民銀行(中央銀行)と規制当局は2日、馬氏ほかアント幹部らと小口オンライン融資の規則草案を巡り会談。これに先立ちアナリストの間では、金融機関並みの厳しい監視対象から除外してもらうのがアント側の意向だとの観測が出ていた。
◎企業価値
アントのIPOでの企業価値評価は約3150億ドルと、2021年予想純利益の31倍を超えた水準で、IT企業並みの株価収益率(PER)だ。これに対し、JPモルガン<JPM.N>、モルガン・スタンレー<MS.N>、シティグループ<C.N>、ゴールドマン・サックス<GS.N>の株式時価総額はあわせて5480億ドルだ。
アントのPERはアリババの27.6倍や米決済サービス大手ペイパルの45倍などのグループに属する。しかし一部の投資家からは、アントのIPOでの企業価値評価は4000億ドルに達してしかるべきだ、との見方も出ている。
そうなると、評価額は資産規模世界最大の銀行である中国工商銀行に並ぶが、同行のPERは6倍程度だ。アントがこうした評価額水準になるのは、中国規制当局が金融リスクの管理強化に乗り出した2、3年前にアントが始めた金融からITへの移行を映すものだ。アントは昨年の収入の大半を、デジタル金融技術プラットフォームの手数料で稼いでいた。
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