- 2020/07/22 掲載
アングル:EU復興基金、ユーロ建て債券市場に起きる地殻変動
EU首脳会議は新型コロナウイルス危機による経済の打撃に対処するため、7500億ユーロ(8580億ドル)の復興基金設立と、7年間で1兆8000億ユーロの支出を盛り込んだ予算に合意した。
8兆5000億ユーロ規模に上るユーロ圏の国債・機関債市場において、EUとして発行する債券はこれまでわずかな比率を占めるにすぎなかった。しかし今回決まった資金調達により、EUの債務はオランダなどの加盟国の水準を超える可能性がある。
エコノミストは「EUが初めてソブリン債市場の主要勢力になる」と言う。
(1)群を抜く起債規模
EUとしての債務残高は現在540億ユーロ前後。昨年の借り入れはゼロで、2018年も50億ユーロにとどまっていた。
しかし7500億ユーロを全額、起債によって調達するなら、21年と22年の債券発行額はそれぞれ2625億ユーロ、23年は2250億ユーロに上ると、INGの金利ストラテジスト、アントワーヌ・ブベ氏は推計する。
これと比較すると、15─19年の欧州投資銀行、EU、欧州金融安定ファシリティ(EFSF)、欧州安定メカニズム(ESM)による起債額の合計は、年平均で670億ユーロにとどまっていた。
世銀グループの国際復興開発銀行(IBRD)の既存債務は約2010億ドルだ。
EUはまた、失業リスク緩和のための緊急支援策(SURE)の資金調達のため、9月から約1000億ユーロの借り入れを始める。
しかしEUによる資金調達は数年に分けて実施されるため、イタリアのような重債務国による国債発行が直ちに大幅に減るわけではない。
(2)トリプルA資産
EU共通債による資金調達は、加盟国債務の相互化に向けた大きな一歩だ。
また外貨準備の運用担当者にとってのユーロの欠点、つまり大規模な「安全」資産の欠如という問題への対処にもなる。格付けが「トリプルA」で、市場規模が17兆ドルを超える米国債に匹敵する資産が、現状では欠けている。
ドイツ、フランス、イタリア3カ国の国債市場を合わせても、米国債の半分にも満たない上、このうちトリプルA格はドイツ国債だけだ。
しかしEUは、ムーディーズ、フィッチ、DBRS、スコープの各格付け会社からトリプルAの格付けを得ている。S&Pグローバルの格付けは「ダブルA」だ。格付け会社は起債規模が今後急増することについて、今のところ格付けへの脅威にはならない、との見解を示している。
(3)グリーンボンド市場に追い風
欧州委員会は復興基金の30%を気候変動プロジェクトに充てる計画。このためS&Pグローバルによると、共通債の3分の1はグリーンボンドになる可能性がある。その場合、世界のグリーンボンド市場規模は89%拡大する。
現在、世界の債券発行に占めるグリーンボンドの割合は3.7%にとどまっている。
キャンドリアムの経済調査グローバル責任者、フローレンス・ピサニ氏は「市場が安全な借り手を求めている今、これ(EUのグリーンボンド)は世銀のような超国家機関にとって、地球温暖化対策を筆頭に、重要な投資資金を調達する際のお手本となるはずだ」と述べた。
(4)ECBも安堵
欧州中央銀行(ECB)にとっても、金融政策として超国家債の購入を増やす好機となるだろう。
ECBは3月、新型コロナ危機に対応し緊急債券購入策(PEPP)を打ち出したが、BNPパリバによるとこの結果、超国家債の購入比率が従来に比べて下がっている。しかしEUの合意により、今後数カ月中に960億ユーロ相当の超国家債の新規発行が見込めるようになった。
BNPパリバによると、PEPPによる超国家債の購入比率も現在の7.5%から、今年下期には少なくとも10%に高まる可能性がある。
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