- 2024/10/11 掲載
アングル:米大統領選、市場は「決まらない」リスク警戒
11月5日の大統領選まで残り1カ月を切ったが、民主党候補のハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領は事実上、互角の戦いを続けている。
2020年の大統領選では、バイデン大統領に敗北したトランプ氏が選挙結果を覆そうとした経緯があり、市場関係者は今回も僅差になれば、選挙結果に異議が唱えられるリスクがあるとみている。議会選でも多くの選挙区が接戦となる可能性があり、不透明感が一段と高まりかねない。
グリーンウッド・キャピタルのウォルター・トッド最高投資責任者(CIO)は「今回はかなりの接戦になるだろう。何らかのもめ事が起きる確率が平均よりも高くなると考えるのは理にかなっている」とし、「市場は不透明感を嫌気する。特に投票日から1─2日経っても誰が大統領になるか分からない事態になれば、市場は確実に嫌気するだろう」と述べた。
現時点では、政治の先行き不透明感が市場の高揚感に水を差す展開とはなっていないようだ。S&P総合500種指数は好調な米経済を背景に最高値を更新。年初からの上昇率は21%と、2年連続で2桁の上昇を記録する勢いにある。
とはいえ、投資家が選挙のリスクを意識していないわけではない。投資家の不安心理を示すシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー・インデックス(VIX指数)は20.9と、9月に記録した低水準から約6ポイント上昇。これは通常、市場が混乱するリスクが中程度もしくは高いとの見方を反映しているとされる水準だ。市場関係者はVIX指数上昇の一因が11月の大統領選だと指摘する。
オプション市場ではテールリスク(確率は低いが発生すると影響が大きいリスク)に対する懸念も強まっている。テールリスクの指標であるネーションズ・テールデックス指数は最近、1カ月ぶりの高水準を記録した。
トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズのマイケル・パーブス最高経営責任者(CEO)は、投資家が投票日前の数日間と投票日直後の数日間に関心を寄せ過ぎていると指摘。選挙結果が争われた場合、市場が混乱するのは投票日の数週間後になる可能性があるとの見方を示した。
「問題は選挙結果そのものより、むしろ、翌朝に有権者の大半が選挙は無効だと考えるリスクだ。私にとってはそれが本当のリスクで、選挙結果が訴訟で争われた場合、恐らく株式市場で売りが膨らむことになる」と述べた。
<過去の事例>
トランプ氏は20年の大統領選結果を覆そうとしたが、市場はおおむね平静を保った。バイデン氏の勝利が正式に宣言されたのは投票日があった週の週末だったが、株価は週内、堅調に推移した。
だが、今回は市場が冷静さを失うリスクがある。特に一方の政党が僅差の選挙結果に異議を唱え、同じ党の議員や激戦州の選挙管理当局がそうした動きに加わった場合は市場に動揺が広がる恐れがある。
トランプ陣営は、市民権のない人が多数、投票するとの懸念を数カ月前から繰り返し示しており、敗北した場合に選挙結果に異議を唱える可能性がある。独立機関や州の調査によると、そうした事例は無視できるほどまれだ。
2000年の大統領選では、共和党のジョージ・W・ブッシュ氏と民主党のアル・ゴア氏が接戦となり、フロリダ州の集計結果にゴア陣営が異議を唱え、結果が確定するまで1カ月以上かかった。
この時は投票日から、ゴア氏が敗北を認めた12月中旬までS&P総合500種指数は5%下落。ハイテク株や経済全般に対する不安も株価の重しとなった。2000年11─12月の同指数は7.6%値下がりしている。
大統領選の年は株価が上昇する傾向があるが、こうした不安定要素は先行きを曇らせる原因になりかねない。トゥルーイスト・アドバイザリー・サービスのキース・ラーナー共同CIOによると、1952年以降、大統領選の年の11─12月はS&P総合500種指数が78%の確率で上昇。平均上昇率は3.3%となっている。
<リスクへの備え>
トールバッケン・キャピタルのパーブス氏は、選挙関連のボラティリティーのリスクをプットオプションでヘッジすることを投資家に推奨。
UBSウェルス・マネジメントの米州債券部門責任者、カート・ライマン氏は、株式におおむね前向きな姿勢を崩していないが、選挙結果が僅差になったり争われたりする場合に備え、公益株や金といった人気の高い資金の逃避先も検討すべきだと述べた。
一方、JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル市場ストラテジスト、ステファニー・アリアガ氏は、選挙結果が争われてボラティリティーが高まった場合も、不透明感が後退すればボラティリティーも低下すると指摘。「選挙は不透明感を生み出すが、最終的には選挙結果が不透明感を和らげる。結局のところ、不透明感が払拭されるから選挙後はほぼ株価が上昇することになる」と述べた。
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