- 2024/10/11 掲載
アングル:増える政策株売却、証券会社とのなれ合いも脱却 自由競争が本格化
[東京 11日 ロイター] - 企業同士のなれ合いの象徴となってきた株式持ち合いの解消が進む中、株式売り出しの幹事選定における証券会社とのなれ合いも解消する動きが本格化してきた。背景には株主構成の在り方を再考する企業が増えてきたことがあり、今後は自由競争の中で証券会社が企業側にどう最適な案を提示することができるか、さらなる工夫が求められることになりそうだ。
<持ち合いもなれ合いも解消へ>
みずほにやられた――。今年7月、大手証券の担当者がほぞをかんだ案件がある。大手損害保険会社を中心に金融機関が保有するホンダ株式約5000億円の売り出しだ。今年最大の案件で、みずほ証券がトップの引き受けシェアを獲得した。
「ファーストコールは株幹に」(証券会社の資本市場担当者)。会社が資本政策を検討する場合、まずは幹事証券に相談するのが常だ。大手企業ではその傾向は薄らぎつつあるが、昔からある慣習がいまだ根強く残っている企業も多い。
しかし、ホンダの売り出し案件で、同社の幹事証券とされる野村証券やSMBC日興証券ではなくみずほ証券が選定されたことは、自由競争が本格化する流れにあることを印象付けた。
みずほ証券の浜本吉郎社長によると、自ら全世界の営業に対してメールを送り、ブック締め切りの1分前まで投資家にアクセスするよう号令をかけたという。
「企業間の持ち合い株式の解消は、今までのなれ合いをキャンセルしようというのがコンセプト。そうであれば証券会社選定も、なれ合いではなく提案ベースでという考えの企業が出てくるのは自然な流れ」と、みずほ証券で株式資本市場案件を手掛けるエクイティキャピタルマーケット部の坂本裕祐部長は指摘する。
<主導権が売り出し人から発行体に>
自由競争が加速する背景には、売り出される対象企業の株価や株主政策に考慮した売却手法が求められるようになったこともある。
ゴールドマン・サックス証券の箕輪祐介・株式資本市場部長は「以前は売り出し人が主導権を握っていたが、発行体に変わってきた」と語る。「物言う株主」といわれるアクティビストの動きが活発化する中、企業が株主構成を真剣に検討し最も適した売却スキームを選択するようになってきているという。
9月にはテルモが、三菱UFJ銀行などが保有していた政策株を解消するため海外売り出しを実施した。案件を取り仕切るトップレフトはゴールドマン・サックス証券で、テルモの広報担当者は、対面での会議を通じて事業戦略への理解を得られる海外機関投資家とのコネクションなどを評価したと話す。
ホンダの案件では、相対的に低い個人株主比率を引き上げるため国内を中心に株式を販売した。財務部IR課・丹羽亮輔課長はみずほ証券を選んだ理由として「銀行の顧客層にもリーチできるなどのポジティブな部分もあった」として、提案を軸に総合的に考慮したと述べた。
<手数料や株式売却方法に「脱伝統」も>
ホンダの売り出しが業界を驚かせた理由にはもう一つある。売り出し案件では通常4%で見積もられる手数料が、3%だったからだ。
手数料引き下げの交渉を行ったホンダの丹羽氏は、「金融機関から政策保有として株式を持たれている状況から、どこよりも早くゼロまで一気に持っていくことで、持ち合い脱却の意思を世の中に伝えることが重要だった」と売り出しの狙いを説明する。保有する全株式を売却してもらうため、手数料率を縮小して売出人の負担を減らしたかったという。
みずほ証券の坂本氏は、今後は「新株式を発行する場合と株式の売り出しで料率が変わる展開はあり得る」との認識だ。業界標準が3%になるとの見方は少ないものの、政策保有株売却の手数料には下方圧力がかかるとみられている。
手数料の多様化だけでなく、政策株売却のパイが広がる中では売り出しなどの伝統的な手法以外でも、これまであまり活用されてこなかったデリバティブ取引を用いるなどのニーズも高まる。
野村証券はこの夏、政策株の発行会社が希望する相手に自社の株式購入を促すことができる取引を始めて実施した。政策株の売却者と契約した野村証券が、証券会社と機関投資家間をつなぐネットワーク上で、発行会社が指定する機関投資家に取引意向を提示し、個別に成立させることができる。「顔が見える投資家に株を持ってもらいたい」という発行会社の意向をくみ取った。
野村の投資銀行部門のエクイティ・プロダクト・ソリューション部で約15年前から政策保有株に関するビジネスに取り組んできた宮島亮部長は、「常に新しいスキームを考えて工夫していかないと、多様化する発行会社のニーズに応えることができない」と話している。
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