- 2024/08/08 掲載
アングル:株急落で想起された過去のFRB緊急利下げ、今回は見送りへ
[8日 ロイター] - 7月の米雇用統計が示した労働市場の急減速が世界同時株安を引き起こし、米連邦準備理事会(FRB)が次回9月の通常会合を待たずに利下げを行う可能性についても観測が強まった。
フェデラルファンド(FF)金利先物8月限は月内の利下げを織り込む形で今週に入って2カ月ぶりの高値を付けた。
実際にFRBが臨時会合を開いて緊急利下げする公算は小さいとみられている。シカゴ地区連銀のグールズビー総裁は今週、FRBの責務は物価安定と雇用の最大化と法律で定められているが、「株式市場に関する規定は何もない」と述べた。
アナリストの間では9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で50ベーシスポイント(bp)の利下げをするとの見方が大勢になりつつある。これより早期の利下げを見込む向きはほぼ皆無だ。
ネーションワイドのエコノミスト、キャシー・ボストジャンシック氏は、「現在の経済データは臨時会合での緊急利下げを正当化する内容ではなく、市場に新たなパニックを引き起こすだけだ」と指摘した。
先週の弱い雇用統計が発表される前に利下げの必要性を訴えたダドリー元ニューヨーク連銀総裁でさえ、臨時会合での利下げは「極めて可能性が低い」と今週になって指摘した。
パウエルFRB議長にとっては、今月22─24日にカンザスシティー連銀が開く経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が、今後必要となる措置について見解を示す機会となる。
パウエル議長は株式市場動揺にはひとまず反応せず、7月31日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で示した方針を堅持すると広く予想されている。
会見では「期待通りのデータが得られた場合、9月の会合で政策金利の引き下げが検討される可能性がある」と述べた。
今後数週間で公表される雇用、インフレ、個人支出、経済成長などのデータが、利下げ幅が25bpかそれ以上になるかを決めることになる。
FRBは過去30年間に8回、臨時会合での利下げを行ったが、その全てにおいてショックが株式市場にとどまらず広く拡大していた。特に債券市場では、企業活動の原動力となる資金の流れが目詰まりを起こしていることが顕著だったが、今回このような変調はみられない。
以下はFRBが臨時会合で緊急利下げした8回の事例:
<ロシア債務危機/LTCMショック―25bp>
1998年10月15日=FRBは通常会合で25bpの利下げを実施したわずか2週間後に、政策金利をさらに25bp引き下げた。ロシア債務危機のあおりで大手ヘッジファンドLTCMが破綻し、米金融市場に動揺が広がり信用スプレッド(上乗せ金利)が急激に拡大。これが投資動向に影響を及ぼし、経済を低迷させる恐れがあった。
<ドットコムバブル崩壊─100bp>
2001年1月3日と4月18日=ドットコムバブルの崩壊で株式市場が暴落、家計や企業財務を圧迫する可能性を懸念。FRBは50bpの緊急利下げを2回実施した。株式市場の動揺は00年終盤までに社債市場にも波及し、高利回り債の国債利回りに対するスプレッドはそれまでの記録で過去最大に拡大した。
FRBは1月31日と3月20日の通常会合でもそれぞれ50bpの利下げを行った。
<9月11日同時多発攻撃─50bp>
2001年9月17日=米同時多発攻撃と数日間続いた米金融市場の閉鎖後、FRBは50bpの利下げを決め、市場機能が回復するまで金融市場に異例の大量資金供給を続けると表明した。高利回り債のスプレッドは200bp超に拡大した。
<世界金融危機─125bp>
2008年1月22日と10月8日=07年夏に始まった米サブプライム危機が世界の市場に波及する中、FRBは1月の臨時会合で政策金利を75bp引き下げた。当時、高利回り債のスプレッドは5年ぶり高水準に拡大していた。
その後、9月15日のリーマン・ブラザーズ破綻で危機は新たな局面を迎え、FRBは翌16日の通常会合で政策措置を取らなかったものの、10月初旬には50bpの利下げなど、他の主要中央銀行と協調行動に踏み切り、が含まれた。高利回り債と投資適格債のどちらも年終盤にスプレッドが過去最高水準に拡大し、まだその記録は破られていない。
<コロナ禍─150bp>
2020年3月3日と3月15日=新型コロナウイルスの世界的拡大を受けた各国の行動制限によりグローバルな移動や商取引が突如として停止状態に陥ったことを受け、FRBは政策金利を50bp引き下げ、その後2週間も経たないうちにさらに100bp下げた。コロナ禍で米主要株価指数は30%余り下落。信用スプレッドが700ポイント拡大し、米国債市場の機能に混乱が生じたことがさらに大きな懸念を呼んだ。
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