- 2024/06/06 掲載
アングル:キャリートレード巻き戻しに揺れる外為市場、ペソなど「運用通貨」急落
[ロンドン 5日 ロイター] - メキシコ大統領選の結果を受けて通貨ペソが急落し、外国為替市場の幅広い範囲に動揺を巻き起こした。投資家は、これまで高い人気を誇っていた「キャリートレード」の巻き戻しが進行するのではないかと疑心暗鬼に陥っている。
キャリートレードは、円やスイスフランといった金利の低い国の通貨を借り入れ、ペソなどの高利回りで運用する取引で、最近では運用先にドルも加わる。世界的に金利水準の格差が広がった半面、市場のボラティリティーが低位で安定していた中で、ブームになった。
しかし今週のペソの円に対する値下がりは劇的で、3日の下落率は4.4%と1日としてはコロナ禍以降で最大を記録。投資家がキャリートレードから急速に手を引きつつある兆しと受け止められた。
ボラティリティーは5日に至っても高いままで、今度は円が対ドルで急落したため、逆にキャリートレードはまだ有効なのかとまた投資家の頭を悩ませている。
INGのグローバル市場責任者を務めるクリス・ターナー氏は「新興国通貨市場のボラティリティーの全体的な上昇は、世界的にキャリートレードの解消を促進している」と指摘しつつ「ではこの先どこに向かうのか」と問いかけた。
<選挙結果がショック>
メキシコ大統領選で与党候補クラウディア・シェインバウム氏が大勝する見通しが伝わると、ペソは急落歩調になった。市場が恐れたのは、憲法改正とそれが米国との関係に与える影響だ。
インドでも企業寄りのモディ首相が率いる与党が単独過半数を確保できないと分かった時点で、通貨ルピーが大きく値下がりした。
このペソとルピーの下げは新興国通貨全般に波及し、ハンガリーフォリントやトルコリラといった別のキャリートレード「運用通貨」も打撃を被った一方、「調達通貨」の円は上昇している。
キャリートレードにとってボラティリティーの脅威度は高い。調達通貨が値上がりするか、運用通貨が下落すれば、金利差で得られる利益は簡単に消し飛んでしまう。
TJMヨーロッパのシニアFXセールス・エグゼクティブ、ニール・ジョーンズ氏は「私の感触では、市場参加者はこれらの取引の大部分を解消している。市場にはコアの長期的なキャリートレードは残りそうだが、48時間前よりも大きく規模が縮小したのは間違いない」と述べた。
これに対してペッパーストーンのクリス・ウエストン調査責任者は「ペソと円のクロス相場が2日で6.3%円高に動いたことで、ポジション解消が大方終了し、再び関与するタイミングではないか」と語り、今後の円の動きを注視する姿勢を示した。
<気がかりな円相場>
もっともキャリートレード復活を決断するには、投資家はさまざまな要素を考慮に入れる必要がある。INGのターナー氏は、シェインバウム氏の政策の行方や、各国通貨の値動きを主導するドルの経路に市場が目を向け続けると予想する。
ターナー氏は「メキシコでは政府当局が既に財政運営に関する投資家の不安をなだめようとしており、国際的には今後米国金利がやや低下し、ドルが軟化する余地があることが、リスクオンの環境とボラティリティー低下を後押しして、キャリートレードの巻き戻しを限定的にすると考えている」と説明した。
円がどう推移するかも大きな気がかりだ。今週に入ってからの円高方向を演出するもう一つの要因は、日銀が7月に追加利上げする可能性があるとの観測が浮上していることで、日本政府・日銀の介入警戒感もくすぶっている。今年34年ぶりの安値に沈んだ円の上昇は、キャリートレードにとってより大きな逆風となり得る。
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