- 2024/05/31 掲載
インタビュー:物価が2%目標上回るリスク、日銀は注意必要=星・東大教授
[東京 31日 ロイター] - 東京大学大学院経済学研究科の星岳雄教授は31日、ロイターのインタビューで、日銀は物価が2%目標を上回ってしまうリスクを心配しなければいけないと述べ、速やかな利上げの必要性を示唆した。日本経済は賃金と物価がともに上がらない状況を脱し、賃金・物価ともに2%程度で推移する状態に収れんしていく可能性が高いと述べた。
日銀の内田真一副総裁は27日の金融研究所主催の「国際コンファランス」で講演し、長く続いたデフレ的な状況からの脱却に自信を示し「今回は違う(This time is different.)」と話した。星教授はこうした見方に賛意を示したうえで、2013年の量的質的金融緩和(QQE)導入当時と現在の経済・物価情勢との違いを強調した。
13年に黒田東彦総裁の下で始めたQQEではインフレ期待が一時的に高まったものの、実際の物価は伸び悩んだ。一方、今回の物価上昇局面はコロナ禍以降顕著になった人手不足の影響もあって賃上げが進み、賃金の上昇がインフレ率や予想インフレをともに高める状況になったと指摘した。今後は賃金が2―3%で伸び、インフレ率が2%という状態に落ち着いてくる可能性が高く、場合によっては物価が想定より上ぶれるリスクに言及した。
星教授は、人手不足の影響で賃上げがいっそう進み、個人消費の回復を反映してサービス価格の上昇も加速する可能性があると述べた上で、「インフレをもっと心配しなければいけない状態になる」と警戒感を示した。次回利上げのタイミングについては言及しなかったものの、「金利を引き上げていかないとインフレが高くなりすぎる」と述べ、日銀は速やかに政策金利を上げていく必要があると示唆した。また、利上げの判断をする際は、為替を含めた資産価格に影響を及ぼす米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の行動も「考慮に入れなければいけない」と述べた。
星教授は、最終的にどの程度まで短期政策金利を上げるべきかを示すターミナルレートについては今から見通すのは難しいと言及を避けた。ただ、ターミナルレートを試算する際に重要となる自然利子率について、企業の生産性の行方がカギになると述べた。人手不足で供給制約に陥る中、供給力を左右する生産性が重要になるためだ。日銀は4月の展望リポートで自然利子率のさまざまな推計値を示したが、マイナス1.0%からプラス0.5%の広範なレンジに及んだ。
星教授は多角的レビューのワークショップや国際コンファランスで一部のセッションの議長を務めるなど、日銀の金融政策に精通している。
<国債買い入れ減、市場との丁寧な対話を>
日銀による国債買い入れの減額について「将来のパスを示していくのは重要だ」と指摘した。ゆっくりとしたペースで国債を売却していく方針として、例えば20年かけて売っていくといったメッセージがあってもいいと述べた。
ただ、政策の自由度を確保するため、保有残高の縮小を進める期間に過度にコミットするのではなく、場合によっては計画から離れることもあり、その際にはきちんと理由を説明するといった市場との丁寧な対話が必要になってくると話した。
日銀の国債買い入れ減額を巡る不透明感が一因となり、長期金利には上昇圧力が掛かっている。星教授はイールドカーブ・コントロール(YCC)をやめて金利が動き出したこと自体は「良いことだ」と述べた。ただ、金利の動きが大きくなりすぎないように財政健全化に向けた見通しを良くしておくことが重要だと話した。
政策金利を巡るコミュニケーションについても、テイラールールのような経済理論上のルールから導かれる政策金利の理論値を示し、その値と実際の政策金利水準とのかい離について説明するといったやり方が政策運営の透明性を高める手法として選択肢となりうる、と述べた。
PR
PR
PR