• 2024/02/12 掲載

アングル:ハリウッドに「大収縮」、TV・映画に加えネット配信も不調

ロイター

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Dawn Chmielewski

[6日 ロイター] - 米国では俳優組合と全米脚本家組合による、痛みを伴う「ダブルストライキ」が終わり、1月初めには映画「オッペンハイマー」とテレビドラマ「メディア王 ―華麗なる一族―」の成功を祝うスターらの姿がレッドカーペットに戻ってきた。だが、皆の心を悩ませていたのは、業界の存続に関わる脅威、つまり「ハリウッドは縮小しつつある」という懸念だった。

「テレビドラマの黄金期(ピークTV)」は終わった――これが、ロイターの取材に応じたエンターテインメント企業幹部やエージェント、銀行関係者ら17人の結論だ。オリジナルの連続ドラマや映画は減少し、予算は慎重に精査され、映画館の利益はますます圧迫される中で、テレビ・映画産業では厳しい経済的現実への適応が進んでいる、というのが業界有力者の見立てだ。

「大収縮が迫っている」。あるベテランのテレビ局幹部は、匿名を条件に語った。「コンテンツの量も製作費も、大幅に削減されることになるのではないか」

この「収縮」説はまもなくはっきりと形を取るだろう。ウォルト・デイズニー、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー、フォックスが2月中に四半期業績を報告するからだ。こうした状況を背景にメディア企業合併の話も進んでおり、最近ではパラマウント・グローバルのオーナーと、映画「トップガン マーベリック」の共同製作に名を連ねたスカイダンス・メディアのデービッド・エリソン最高経営責任者(CEO)の間で買収交渉が行われた。

投資銀行TDコーエンのアナリストによる試算では、放送・ケーブルテレビ業界の広告収入は2023年末の時点で前年比7%の減少となっており、LSEGによればディズニーの広告収入は総額で11.7%減少している。ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーは2023年1-9月に広告収入が13%減ったと報告している。出版やラジオと同様、既存のテレビ放送でもデジタル広告による空洞化が進んでいる。

2024年も大幅な改善は見込めない。TDコーエンの予想では、放送・ケーブルテレビの広告収入はさらに7%減少する見通しだ。メディア各社はデジタル広告事業を拡大中だが、コーエン・グループによると、それでも依然として広告収入全体の80%は、衰退する既存テレビ事業が稼いでいるという。

この業界で未来へのけん引役と期待されていたのはストリーミング(ネット配信)サービスだが、何年にもわたって資金を注ぎ込んでみたものの、なかなか収益性は上がらない。業界が、調査会社モフェットネーサンソンの言う「第3次ストリーミング戦争」に突入した今、競争によって「絶対に持続不可能な」投資があおられる一方で、製作費は2022年の水準を下回るとみられる。

TDコーエンによれば、大半のストリーミングサービスでは値上げの一方で新作コンテンツの配信は減少しており、ストリーミング業界の長期戦略に対する懐疑的な見方が膨らんでいるという。

リアリティー番組ではなく台本のあるシリーズ番組の総本数は、過去最高だった2022年の633本に比べて急減するとみられている。ハリウッドにおけるストライキと支出削減が重なって、昨年の制作本数は落ち込んだ。市場調査企業アンペアアナリシスのデータによると、2023年に米国で公開されたシリーズは481本にとどまった。

アンペアによると、市場首位のネットフリックスでさえ、台本のあるシリーズ番組の配信本数は2022年から2023年にかけて3分の1以上も減少した。ネットフリックスは第4・四半期に新規加入件数が過去最高となり、ストリーミングサービスとしては高い収益性を誇る。同社にコメントを要請したが回答は得られなかった。

ロイターの取材に応じた業界幹部らは、今後数年のうちにストリーミングサービスでの制作本数はさらに減少し、300本台になる可能性があると語った。

国内の映画興行成績は、2024年も引き続き俳優と脚本家によるストライキの影響を受け、今年広範囲で公開される映画は2023年の約100本に対して90本にとどまるだろうとモフェットネーサンソンはみている。実績のない新作ストーリーやキャラクターによる映画作りが難しい状況のもと、2024年の米国における映画興行収入は80億ドル、つまり2023年に比べて10%、2019年に比べて30%の減少になると予想されている。

<「新世界秩序」>

業界幹部らによれば、テレビ・映画産業は減速中だ。アップルTVプラスのドラマ「フォー・オール・マンカインド」や、同じくテレビドラマの「アウトランダー」製作にも名を連ねたロナルド・D・ムーア氏のような一流プロデューサーによる企画であっても、開発責任者たちはなかなかゴーサインを出そうとしない。

製作予算も縮小している。時価総額3兆ドルを誇るアップルのように景気の良い親会社のもとにあるアップルTVプラスでさえ例外ではない。

視聴者の取り込みに失敗した番組は、以前よりも早々に打ち切りになっている。画期的なグラフィックノベルを原作に、オスカー受賞経験者であるミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンの2人を起用したディズニープラスの「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」シリーズもその1つだ。

あるベテランのテレビエージェントは、シーズンが短縮され、1シーズンあたりのエピソード数も減少した状況を「新世界秩序」と呼ぶ。

フォックスは、主力ドラマ1本にかける予算を1話あたり1000万ドルから削減し、450万ドルとすることを検討中だ。ディズニーではボブ・アイガーCEOが「物言う株主」の攻勢を浴び、開発責任者はさらに厳しい吟味の対象となっている。

著名なタレントマネジャーの1人は「次にどう動くべきか、誰もがいささか神経質になっている」と語る。

<「スーパーヒーロー疲れ」>

映画産業では、かつてはヒットが確実視されたフォーマットでも興行収入が振るわなくなっており、やはり存亡に関わる危機を抱えている。あるベテランの製作スタジオトップは、ここ数年「スーパーヒーロー疲れ」という言葉をよく聞くという。それが顕著に表面化したのが昨年で、「マーベルズ」「シャザム!―神々の怒り―」「ザ・フラッシュ」など、巨額の予算にもかかわらずヒットせずに期待を裏切る作品が相次いだ。

その反動として映画会社は、数少ない野心的な企画、たとえば「オッペンハイマー」や「バービー」といった規模の、文化的・興行的影響のある作品を生み出す可能性にフォーカスしていくというのが業界関係者の観測だ。両作品とも、実績のあるシリーズ作品が低迷する中で、2023年の興行成績を下支えするのに貢献した。

近年で最大のヒット作の1つに関わった映画会社幹部は、「スペクタクルが必要だ」と語る。「映画館で公開されているうちに見なければ、という雰囲気が欲しい。自宅で見ても変わらないのであれば、大作にはゴーサインを出せない」

TDコーエンによれば、観客は大音量の超大作以外は、ストリーミングサービスでの鑑賞を好む。2022年の上位100作品では、その興行収入全体の56%を、わずか19本のアクション・冒険映画が稼ぎ出した。こうした興奮度の高い作品を除けば、持続可能な回復は見込めないとTDコーエンは指摘する。

投資家でもあるもう1人の経験豊富なメディア企業幹部は、こうなれば映画産業はさらに縮小すると述べ、公開される映画が少なすぎて、全米の3万9000カ所もの映画館を維持することが正当化できなくなると警告する。TDコーエンの見方も同じだ。このメディア企業幹部は、映画館ビジネスは「危機にひんしている」と話した。

(翻訳:エァクレーレン)

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