- 2023/12/30 掲載
人件費転嫁が賃上げの鍵=「コスト圧縮」取引慣行が壁に―春闘
2024年春闘で、労働組合から2年連続の大幅賃上げの要求が相次いでいる。中小企業を含む賃上げの広がりの鍵となるのは、モノやサービスの価格に人件費上昇分の価格転嫁を実現し、原資を確保できるかどうかだ。長引くデフレで企業には「コスト圧縮」を旗印に安く仕入れることを優先する取引が定着しており、労組側は「経営トップの思い切った意識変革が必要」と訴えている。
23年春闘では、連合集計で賃上げ率が3.58%に達し、大手企業だけでなく雇用の7割を占める中小企業にも波及した。ただ、中小経営者からは「2年続けて賃上げしようにも無い袖は振れない」との声が上がる。愛知県内の製造業経営者は「取引先からは値下げ要請(が根強い中)、原価上昇もあり悩ましい状況」とこぼす。
ネックは系列企業が連なる日本特有の取引習慣だ。企業の調達担当は「良いものをどれだけ安く仕入れられたかで評価される」(自動車関係者)のが通例で、価格交渉を阻む一因となっているという。日本商工会議所が10月に行った調査では、労務費アップ分を取引価格に全く転嫁できていない企業は3割近くに上った。
中小製造業の労組を中心とする「ものづくり産業労働組合JAM」の安河内賢弘会長は「値上げ交渉で取引を打ち切られるのではないかとの懸念が中小経営者には根強い。取引先を広げ、価格交渉力を持つことが必要だ」と指摘する。
こうした状況を打破しようと政府は11月、企業に労務費転嫁の交渉を促す指針をまとめた。日本総合研究所の山田久客員研究員は「中小が大手に価格の協議をしやすくし、価格転嫁率を高めていくのに良い施策だ」と分析する。連合の芳野友子会長は企業側との懇談などで「賃上げには労務費を含む価格転嫁の実現が必須だ」と訴え、機運の醸成に努めている。
【時事通信社】
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