• 2023/12/09 掲載

アングル:自動運転車は安全か、タクシー事故契機に米で再過熱する議論

ロイター

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Avi Asher-Schapiro

[ロサンゼルス 6日 トムソン・ロイター財団] - 米国のハイテク拠点・サンフランシスコでは、無人タクシーの導入がスムーズに発進すると予想されていた。しかし、人身事故を起こすなどさまざまな問題が発生し、カリフォルニア州全域で無人自動車への批判が高まっている。

カリフォルニア州公益事業委員会は8月の採決で、ゼネラルモーターズ(GM)傘下の無人タクシー企業クルーズと、グーグルの親会社アルファベット傘下で自動運転技術を開発するウェイモが、サンフランシスコで初めて24時間営業の無人タクシーを走らせることを許可した。

そのわずか2カ月後、サンフランシスコでクルーズのタクシーが、他の車がはねた歩行者をひく事故が発生。同州自動車局(DMV)はクルーズに対し、全ての走行を停止するよう命じた。

DMVは、自動運転車が一般市民にとって危険であると判断。クルーズは全国で走行を停止すると発表した。同社はまた、無人タクシーの安全性を巡る検証作業を拡大し、トップは辞任した。

米国で無人運転車が事故を起こしたのは初めてではない。だが、クルーズの事故をきっかけに、カリフォルニア州全域で自動運転車をどの程度のスピードで普及させるべきか、という長年の議論に火が付いた。

カリフォルニア州議会で民主党トップのセシリア・アギアカリー議員はトムソン・ロイター財団の電話インタビューで「成功してほしいが、安全でなければならないし、雇用を失いたくはない」と語った。

カリフォルニア州は自動運転技術の育成場のようになっており、こうした安全と技術開発の相克はとりわけ深刻だ。

DMVによれば、サンフランシスコでは40社以上が自動運転車の試験走行に許可を取得している。

ウェイモは最近、無人タクシー事業をロサンゼルスにも拡大した。しかし、安全擁護団体や労働団体からの警鐘はますます大きくなっている。

サンフランシスコでは、自動車のない空間を求める団体「セーフ・ストリート・レベル」の活動家らが、車のボンネットにコーンを置いてセンサーを混乱させることで、無人タクシーを妨害する活動を行っている。

ロサンゼルスでは、自動運転技術の拡大と、それが職業ドライバーに与える影響に抗議するため、関連労働組合のチームスターズが何度か集会を開いた。

「こうした大企業は、性急に物事を進めようとしている。成長と市場シェアを優先する典型的なハイテク新興企業であり、全てが壊れてもおかまいなしだ」と、チームスターズ西部地区のピーター・フィン国際バイスプレジデントは電話インタビューで語った。「安全性の問題、渋滞の問題、そしてもちろん労働の問題がある」と訴える。

自動運転車業界側は、慎重に技術を導入していると主張する。

自動運転車産業協会のジェフ・ファラーCEOは「この技術の開発には10年以上の歳月がかかっている。大規模な投資と人的資本が必要だった」と述べた上で「人々が疑問を持つのは当然で、われわれは信頼を築く義務がある。安全性はわれわれの仕事の中核だ」と語った。

クルーズやウェイモなどの企業は、自動運転車は交通事故や負傷者の減少につながり、物流部門でより多くの高賃金雇用を創出する可能性があると主張。この技術を完成させるには、密集した都市環境での実環境テストが不可欠だとしている。

ウェイモの広報担当者、サンディ・カープ氏は「交通安全を向上させる技術を、責任を持って展開する上で、われわれが走行する地域社会からの信頼と安全は重要だ」と述べた。

自動運転車はアリゾナ、テキサス、フロリダなどの州でも試験が行われている。

だが、反発は強まっている。11月には20以上の労組が自動車安全規制当局に対し、ウェイモやアマゾン・ドット・コム傘下ズークスを含む業界全体の調査を開始するよう求めた。

<技術的ブレークスルー>

サウスカロライナ大学法学部のブライアント・ウォーカー・スミス教授によると、ハイテク企業は10年以上前から自動運転車の登場は間近だと予測しており、技術的には既に大きな節目を迎えている。

ウェイモは2019年後半に、車内に座って監督する人間の「セーフティドライバー」をなくしており、広報のカープ氏によれば、こうした完全無人運転車の走行距離は500万マイルを超えた。

しかし、安全性の問題は業界を悩ませ続けている。また、技術開発が予想以上に困難でコストがかかることがわかり、人員削減や一部企業の経営破綻にもつながった。

技術系ウェブサイト、アース・テクニカが今年9月に集計したところでは、ウェイモとクルーズの事故報告書には、合計約600万マイルの走行で102件の事故が記録されている。

これらの事故のほとんどは低速運転の時に起こっており、他のドライバーの責任によるものだった。

他にも懸念はある。サンフランシスコでは、自動運転車が緊急活動の妨げになった事例が警察と消防から何十件も報告されている。

<雇用に影響>

自動運転革命が人間のドライバーや労働市場にどのような影響を与えるかは、まだ不透明だ。

2017年のある研究では、自動運転車に急速に移行すれば400万人以上の雇用が失われかねないと分析している。

半面、自動運転車は物流部門への投資を増やし、より高給の技術職やエンジニア職を生み出す可能性もある。

米運輸省の委託を受けた2021年の研究論文は、自動運転によって米国全土で若干の雇用が失われるが、他の分野での雇用増加によって相殺されると分析した。

60万人以上の職業ドライバーを擁するチームスターズ労働組合は、自動運転産業、特に貨物セクターにおける新たな規制提唱の旗振り役を努めている。

カリフォルニア州のアギアカリー委員は1月、チームスターズの支援を得て、重量1万ポンドを超える自動運転貨物トラックに人間のドライバーの同乗を義務付ける法案を提出。ところが、ニューサム知事は、技術革新を妨げるとしてこの法案に拒否権を発動した。

アギアカリー氏は、自動運転技術が慎重に展開されることを最も重視しているとし「最も避けたいのは、自動運転トラックが人をはねることだ。この業界はゴールデンタイム(黄金期)を迎える準備が整っていない」と語った。

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