- 2023/11/18 掲載
アングル:EVモーター「脱レアアース」加速、中国リスクを低減
[ロンドン/ベルリン 14日 ロイター] - 自動車業界では、レアアース(希土類)をほとんど使わない電気自動車用(EV)モーターを作る動きが活発化している。レアアースの生産は中国が支配しており、欧州、米国、日本の自動車メーカーとサプライヤーは、中国依存を避けようと、こぞって代替品を模索している。
自動車メーカーはこれまで、レアアースを基にした永久磁石を搭載するモーターに頼ってきた。
しかし、かつて大きすぎて効率も悪すぎた永久磁石を使用しないタイプのモーターや、レアアースの含有量を大幅に減らしたモーターが商業的に利用できるようになったことで、代替品を探す動きが加速している。
テスラは次世代EVでレアアースを使わないと今年発表し、話題を集めた。
一方でゼネラルモーターズ(GM)、ジャガー・ランドローバー(JLR)や、大手部品メーカーのボルグワーナーなどの大手サプライヤーは、電流を使って磁場を発生させる巻き線界磁式同期モーター(EESM)など、レアアース含有量が少ない、もしくは全く含まないモーターを研究、開発している。
日産自動車のように、より新しいEESMモーターの開発と、レアアース含有量を徐々にゼロに近づける永久磁石モーターの開発を併行させる二重戦略を採り、さらに先を行く企業もある。
中国は17種類のレアアースの採掘と加工を独占しているが、諸外国の企業はその支配力を緩めようと動いている。
中国が最近、EVの生産に不可欠なガリウムとグラファイトの輸出を規制したことは、過度の中国依存のリスクを思い知らせる出来事だった。
独部品メーカーのZFが開発したEESMモーターは、永久磁石モーターのサイズと性能に匹敵するとオットマー・シャラー最高技術責任者(CTO)は言う。「中国からの独立を一歩進めるための重要な貢献だ」とシャラー氏は話す。
中国依存の問題もさることながら、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアースの精製では、持続可能性目標に反する溶剤が使われたり、有毒廃棄物を排出する。
業界幹部は、「(開発に)成功すれば、今よりずっと持続可能な製品を手に入れられる」と言う。
BMWなどのメーカーは長年の研究の末、既に開発に成功したと説明している。同社の次世代EV用EESMモーターの開発を担当するウーベ・デューク氏は、「ホームランとはいかないが、レアアース無しでも非常にうまく動く」と語った。
<新技術を開発して待機>
平均的なEV用永久磁石モーターは、ネオジウムを約600グラム使用している。ネオジムの価格変動は大きく、現在は1キロ当たり約125ドルと、昨年のピーク時の約223ドルから下落しているが、2020年の65ドルに比べると大幅に高い。
独部品メーカーのヴィテスコは、仏ルノー向けにEESMモーターを設計し、2026年には新バージョンを発表する予定だ。同社幹部は、レアアースを使用しない代替品なら価格の乱高下を回避できると述べた。
米新興企業ナイロン・マグネティクスのように、レアアースを使用しない永久磁石を開発している企業もある。
テスラがレアアース不使用を発表したことで、「EV用磁石の製造にレアアースは必要ないという事実にバイヤーが目覚めた」とナイロンのジョナサン・ロウントゥリー最高経営責任者(CEO)は語った。
日産はクロスオーバータイプのEV「アリア」にEESMモーターを採用している。パワートレイン・EV電動技術開発本部のエキスパートリーダー、大木俊治氏は、同社がより優れたEESMモーターと、レアアースの使用量を段階的になくす永久磁石の両方を開発していると述べた。
コンサルタント会社IDTechExのアナリスト、ジェームス・エドモンドソン氏は、レアアース価格が上昇したため、自動車メーカーはあわてて代替品を探したが、価格が下落した現在は状況を静観していると説明。中国の動向と併せ、各国政府が米「インフレ抑制法」のような中国産レアアースの使用を抑制する措置を取るかどうかを見守っていると述べた。
「自動車メーカーが他の技術を待機させているのはこのためだ」と同氏は語った。
IDTechExの予測では、今後10年間でレアアース永久磁石モーターの世界市場シェアは若干低下するものの、70%以上を保つとみられる。中国のEVメーカーはレアアースの使用を抑える必要に迫られないためだ。ただ、欧州でのシェアは50%に近くなる見通し。
課題はモーターだけにとどまらない。
一部のEVでは、レアアースの約3分の1が音響システムのスピーカーに使用されている。英国のウォーウィック・アコースティクスは、従来製品より90%軽量でエネルギー効率に優れたレアアース不使用のスピーカーを開発した。
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