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全世界的な物価高騰と円安の進行によってドル不足が現実的問題となりつつある。日本の輸出が活発だった時代には、輸出した製品の代金としてドルを受け取っており、外貨の確保は容易だった。しかし工場の海外移転が進んだことで貿易によるドル流通が減り、ここに物価高騰と円安が加わった。今後は、輸出に関係なく外貨を確保できるよう、金融市場の整備を進める必要がある。
かつての日本は容易に外貨を確保できた
日本は典型的な加工貿易の国であり、製造業の多くが原材料を輸入し、国内で製品を製造して海外に販売するビジネスモデルだった。こうした製造業のビジネスと金融ビジネスとの間には距離があるとイメージする人が多いが、現実はまったくの逆である。
国内に工場を持つメーカーが製品を製造するためには、まずは原材料や資材を輸入しなければならない。日本が購入する商品であっても、多くの場合、決済はドルになる。決済においてマイナーな通貨を受け取ってくれる企業は少ないので、まずは基軸通貨であるドルを用意しないことには、モノ作りをスタートすることすらできないのが現実だ。
日本は今となっては経済大国なので、円決済が通用しそうなものだがそうはいかない。世界の為替市場はすべてドルベースで構築されており、ドル以外の通貨同士の両替であっても、たいていの場合、一旦、ドルに替えられた後、当該通貨に両替される。結局のところ世界の金融システムはドルで回っているので、貿易の決済もやはりドルが中心となってしまう。
日本が輸入する側(つまり顧客として買い入れる側)であれば、円建ては容易になるはずだが、製品が単体として存在しているケースは少なく、製造を行った現地の企業は別の部品や原材料をやはり外国から輸入している。この場合の決済はドルになるので、現地企業は為替の影響を排除するため日本向けの輸出であってもドル決済を望むケースが多くなる。
日本からの輸出における米ドル決済の比率は47%、輸入における米ドル比率は67%である。米国向け輸出の場合には86%が、米国からの輸入については75%がドル決済となっている。つまり日本の製造業というのは十分な量のドルを確保できなければ、ビジネスの継続するままならないのが現実である。
昭和から平成初期の時代にかけては、輸出が旺盛だったことから、終戦直後の一時期を除き、外貨不足の問題は発生しなかった。たとえばトヨタ自動車の場合、実際に製品を販売してから代金を回収するまでの期間は約1.5カ月であり、在庫の回転期間は約1カ月となっている。この間の資金繰りを確保できれば良いので、相応の外貨があればオペレーションを維持できる。
経済全体で見ても、受け取ったドルを国内の支払いに充当するため、一定のドル売り需要があり、輸入でドルが必要な企業に金融システムを通じて融通することができた。
企業が受け取ったドルは日本には送金されない
ところが近年、多くの日本企業が現地法人への生産に切り換えており、現地法人が販売代金として受け取ったドルは日本国内には送金されなくなった。このため企業全体としては十分なドルがあったとしても、日本国内で輸入に必要なドルが確保できるとは限らない。
また日本国民の生活水準向上に伴って、中国などから純粋に消費財として輸入する品目も増えている。これは輸出を目的とした輸入ではないので、一方的なドルの流出につながる。つまり日本では経済構造の転換に伴って輸出以外でドルを調達する必要性が高まっているわけだが、こうしたところに発生したのが全世界的な物価上昇と円安である。
コロナ危機からの回復期待やサプライチェーンの混乱によって全世界的な物価高騰が進んでいる。原油や天然ガスはもちろんのこと、各種金属類や食糧品、半導体など値上がりはあらゆる品目に及ぶ。
日本は、原油や天然ガスなどエネルギー関連で約11兆円、鉄鋼石や非鉄金属など原材料で約4.7兆円、食品類で6.7兆円など総額で70兆円近くの輸入を行っている。原材料や金属類、繊維類などは最終製品となって輸出されるので、外貨獲得につながるが、食品類は多くは日本国内で消費されてしまう。エネルギーについても暖房や自動車の燃料分に関しては国内消費向けなので、外貨の獲得にはつながらない。
海外の物価が高騰すれば、その分だけドルでの買い付け額が大きくなり、日本企業はより多くのドルを用意しなければ輸入決済ができなくなる。日本企業がドルを確保するたびに実需でのドル買いが発生し、為替は基本的に円安に向かいやすくなる。円安が進むと、輸入物価が上昇し、さらに多額のドルが必要になるという悪循環になりかねない。
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