【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
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日本銀行は、これまで行ってきた金融政策を見直す「点検」を進めてきたが、2021年3月19日の金融政策決定会合で、その「点検」の結果が示された。本稿では、金融政策の点検の結果、見直されたポイントを整理しつつ、株式市場にどのような影響があるかを解説したい。
日銀の金融政策の点検結果まとめ
2021年3月19日の金融政策決定会合では、日銀がこれまでの金融政策の点検結果を示し、それを踏まえ以下のように金融政策を修正した。
・ポイント1:「金利」「量」「質」の大枠は不変
今回の結果は、現在実施している金融緩和の持続性を高めることに主眼を置いた「微調整」という印象が強かった。大胆な金融緩和に伴う副作用を和らげ、物価目標達成を粘り強く待つ姿勢を示した格好だ。
・ポイント2:2016年導入のイールドカーブ・コントロール(YCC)は基本的に不変
短期金利はマイナス0.1%、長期金利は0%程度に据え置かれた。長短金利を極めて低位に保つことが効果的であるとの見方は「点検」を踏まえても不変だった。ただし、声明文には長短金利を引き下げる用意があるとの文言が明記された。実際に長短金利が引き下げられる可能性は低いものの、追加緩和の余地があることを示した形だ。
・ポイント3:10年金利の変動幅「0%程度」の解釈は0%±0.25%へと拡大
イールドカーブ・コントロール政策の導入以来、長期金利は0%程度で固定されてきた。日銀が言うところの「程度」とは従来マイナス0.20%~プラス0.20%を指していたが、今回それは0%から上下0.25%へと拡大された(マイナス0.25%~プラス0.25%)。また、これまで口頭でのみ示されてきた変動幅は声明文に明記されるようになった(※日銀は変動幅「拡大」ではなく「明確化」と説明しているが、当記事では拡大と表記する)。
10年金利・変動幅の微調整、その意味とは?
長期金利の変動幅拡大の狙いは、海外からの金利上昇圧力を遮断しつつも、市場機能を復活させることにある。
本来、長期金利は市場参加者の経済・物価見通しによって変動するものであるため、今回の決定は正常化の第一歩と言える。長期金利(10年)が市場機能を失ってしまうと、超長期金利(20年超)も極めて低位で貼り付いてしまい、その結果として年金や生保といった長期資金を運用する主体の運用環境が厳しくなり、それらサービスの提供を受ける人々(年金加入者、生命保険の契約者)の便益が悪化してしまうという「副作用」がある。
こうしたイールドカーブの過度なフラット化が金融緩和の効果を削いでしまうとの指摘は多い。日銀もそれを認めており、今回の点検ペーパーでは、超長期金利が低下すると消費者マインドが悪化するとの結果が示された。
もっとも、長期金利の変動幅が拡大されたとはいえ、その幅はわずか0.05%ポイントであるから、長期金利が“自由”に動ける米国との比較で言えば、この程度の幅は誤差に過ぎない。
また、2021年3月に入り上昇基調が強まった米国の10年金利は1日の変動幅が0.1%(10bp)を超えることもあった。こうして考えると上下に0.05%という変動幅拡大そのこと自体は“細かすぎる”と言っても良いかもしれない。
ちなみに、上下に0.25%という変動幅は、厳密には上下非対称で、もう少し幅がありそうだ。というのも、公表資料には、10年金利がプラス0.25%を超えそうな場面では「連続指値オペ」と命名された措置が発動されると明記されている一方で、マイナス0.25%を下回る場面では「厳格には対応しない」と書かれている。
指値オペとは、日銀が特定の利回り(≒プラス0.25%)で金融機関から無制限に国債を買い入れる市場操作を指す。それを連続(毎日?)するというのは極めて強い表示である。こうして考えるとプラス0.25%より金利が上昇する可能性は低いと考えられる。
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