【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
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2021年は金融政策の予想が忙しくなりそうだ。というのも世界経済が正常化に向かう下で各国の中央銀行が出口戦略を模索する年になると予想されるからだ。2020年12月時点で、ゼロ金利を採用する各国中銀のうち、最も政策の出口に近いのはFRB(連邦準備理事会)だ。FRBは、現在の極めて緩和的な金融政策を2021年も継続する一方、経済活動正常化の進展度合いを確認しつつ、2021年後半には何らかの出口戦略のシグナルを発すると思われる。その際、日銀はどういった舵取りをするのか。2021年の見通しを解説する。
2021年予測:コロナの感染状況
2021年の展望に先立って、筆者が前提としている世界のコロナ感染状況を示しておく必要があるだろう。2020年12月時点で想定しているのは下記のシナリオだ。
【2021年春頃まで】
2020年3~5月のような厳格なロックダウン(都市封鎖)は回避するも、2020年10~12月期と同程度の経済活動の制限された状況が続く。
【2021年央以降】
欧米を中心にワクチン投与が進捗し、感染状況が徐々に好転。その後も段階的な制限解除が続く。
この見方は、恐らく市場関係者(政策当局者などを含む)の中心的見通しに近いと思われる。したがって、コロナ感染状況がこの見通しより良好なら経済全般にプラスの効果があるだろう。
2021年予測:米国の政策金利の行方
ここからは米国経済およびFRBの先行きを考える。まずは、足元の米国経済の回復軌道を確認してみよう。2020年11月雇用統計によると米国の失業率は6.7%である。これは同年9月時点でFOMC(連邦公開市場委員会)参加者が予想していた10~12月平均値を0.8%ポイントも下回っているから、これまでの景気回復ペースはFRBの予想以上であったということになる。
雇用者数は3月と4月に約2100万人減少した後、11月まで7カ月連続で増加し、約1230万人が職を取り戻した。名目総賃金(就業者数×時給×労働時間)は前年比マイナス0.6%と、プラス圏が視野に入る水準まで回復している。
コロナ禍発生直前の失業率が3.5%程度であるから、それを1つのゴールとするなら、FED(連邦準備理事制度)が金融緩和の手を緩めるのはそう遠くない将来かもしれない。
もっとも、FRBは2023年末まで政策金利をゼロ(正確には0.125%)に据え置く方針に関して、ドットチャートを通じて事実上コミットしている。ドットチャートとは、17名のFOMC参加者それぞれが各年(2020~23年)における政策金利の見通しを示し、それをまとめたグラフであり、その中央値は政策金利の“道しるべ”として認識されている。
そうしたドットチャート上では、2023年末の政策金利をゼロと予想する参加者が13名おり、最多数となっている。そしてここにはパウエル議長、クラリダ副議長、ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁など中枢メンバーが含まれていると思われる。したがって「FRBは2023年末まで利上げをしない」と受け取って差し支えないだろう。
またFRBはアベレージ・インフレターゲット(以下、AIT)と呼ばれる政策運営方針を掲げ、長期にわたる金融緩和継続の方針を示している。
AITの大枠は、「物価上昇率が短期的に政策目標である2%を上回ったとしても、長期平均が2%程度であれば、金融引き締めはせず、失業率が十分に低下するまで金融緩和に専念する」という内容である。こうした方針は、金融市場の利上げ観測を未然に防ぐ狙いがある。
実際、FRBのメッセージは金融市場に浸透している。米国金利のイールドカーブに目を向けると、政策金利見通しを反映する2年金利は0.2%近傍とグラフの底辺近くに貼り付き、10年金利は0.9%、30年金利ですら1.5%と低位に抑制されている。
金利水準(特に2年)から逆算すると、金融市場参加者はFRBが2023年末まで金利を据え置くと予想していることになる。現在のところFRBのメッセージを疑っている様子はない。
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