【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
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現在、日本銀行はこれまで金融政策を見直す「点検」を進めている。2021年3月の金融政策決定会合では、その「点検」の結果が示されることになる。本稿では、日銀の金融政策の点検の結果と、それを踏まえて、どのように金融政策が修正されるのかを予想したい。
日銀の現状整理
はじめに、現在の日本銀行が置かれている環境と日銀の姿勢を整理しておこう。
■日銀の置かれている環境
- ・日本経済は大幅な需給ギャップ(需要不足)を抱えておりデフレ圧力が高まっている
- ・2020年12月の消費者物価は前年比マイナス1.2%と大幅なマイナス、生鮮食品とエネルギーを除いたベースでもマイナス0.4%とマイナス圏にあり、物価目標の2%達成にはかなりの距離がある
■日銀の姿勢
- ・それでも日銀は物価目標2%を見直すつもりはない
- ・デフレ圧力を和らげるためには、金融緩和を長く継続する必要があると考えている
- ・金融緩和を長期化するには副作用への対処が必要であると認識している
- ・ただしこれ以上、金融緩和を強化しても経済にプラスの影響があるとは考えていない
こうした認識を踏まえ、2021年3月の日銀政策決定会合の結果を予想していきたい。
日銀の用語解説:金融政策の「変更」「修正」の違い
予想に先立って、日銀関連の文脈で用いられる言葉について、その使い分けを整理しておきたい。
やや難解なのは金融政策の「変更」と「修正」だ。両者に厳密な定義こそないが、前者と後者を使い分けると金融政策を理解しやすい。
一般的に政策「変更」と言えば、それは声明文(金融政策決定会合の結果が書かれている文書)に記載されている政策方針の書き換えを伴うものであり、通常は金融緩和の度合いそのものに変化を与え得る。典型例として政策金利の引き上げ(下げ)、資産購入額の増額(減額)などがある。
一方で、政策の「修正」という場合は、金融政策の運営上で生じる比較的小さな問題をクリアするための措置を指し、金融緩和の度合いは不変であることが多い。具体的には、将来の政策指針であるフォワードガイダンスの部分的な書き換え、国債やETF(上場投資信託)の買い入れ方針の弾力化、オペ運営方針の変更などである。
3月の金融政策決定会合で予想されるのは「変更」ではなく「修正」である。つまり、金融緩和の度合いはほとんど変わらないと見られる。
今後、修正されるかもしれない5つの政策
予想される主な「修正」は、下記の通りだ。
■2021年3月の金融政策決定会合で予想される「修正」
- (1)「0%程度」とされている長期金利の誘導目標について「程度」の解釈を拡大する?
- (2)ETFの買い入れ方針の柔軟化?
- (3)日銀当座預金に適用する付利(およびその適用対象)を調整する?
- (4)銀行貸出を増加するためのプログラムを強化する?
- (5)長期金利の操作対象年限を10年から5年に短縮する?
(1)と(2)の注目度は高いが、金融市場全体へのインパクトは限定的と言える。また、(3)と(4)は銀行セクターに固有の影響を与え得るが、大きなインパクトは予想されず、(5)についてはやや唐突かつ大胆過ぎる印象があり、今回の決定はないと思われる。
そこで本稿では(1)と(2)について後ほど詳しく見ていきたい。
実際、黒田総裁は2020年12月21日開催の金融政策決定会合後の記者会見で、点検の目的を「より効果的・持続的な金融緩和をもたらすために、現在行っている政策の点検を行うということです。あくまでも、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』のフレームワークは変えませんし、2%の「物価安定の目標」などのコミットメントも変えるつもりはまったくありません」と枠組み変更の可能性を一蹴している。
そのほかの政策委員もおおむね同様の見解を示している。点検の実施前に、なぜ金融政策のフレームワークを変更する必要がないと結論付けられるのか、という疑問はあるが、大幅な政策変更の可能性は低いということは言えるだろう。
【次ページ】予想(1):長期金利の変動幅が拡大される?