【連載】日銀ウオッチャー藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
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日本経済の景気を左右する日本銀行の金融政策。日銀は新型コロナにより打撃を受ける日本経済を背景に、新たに国債の無制限購入を決定したうえで、さらなる金融緩和措置としてマイナス金利深掘りの可能性に言及した。一方、金融緩和の副作用は増大しており、これ以上の金融緩和は逆効果との見方もある。「日銀の本音はどうなのか」──。それを推し測る一助となるのは、金融政策の方向性を決める「金融政策決定会合」と、会合の議事内容をまとめた資料「主な意見」にある。本稿では「主な意見」のポイントを点検し、日銀の本音を探り、金融政策を予想していく。
大胆に見える日銀の政策変更も、冷静に検証すると……
2020年4月27日の金融政策決定会合で日銀は無制限の国債購入を決めた。それまでの「80兆円をめど」とする長期国債の買入れ方針を「上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」へと変更した。
一見するとかなり大胆な決断に思えるが、これは表面的な政策変更であり、緩和効果に大きな違いは生じないと理解した方が良い。というのも、それ以前の日銀の国債の買い入れペースを見ると、15兆円程度と従来の買い入れ目標額の80兆円を大幅に下回っていたからである。
2014年10月以降、日銀は長期国債の買い入れ方針を年間80兆円(をめど)とする積極的な国債買い入れを進めてきたが、既に、市場での長期国債の流通量が枯渇気味になる中で買い入れ量は減少し、政策方針との乖離(かいり)が生じていた。
長期国債の流通量が減少している現状では、日銀が努力したところで長期国債の買い入れ額は回復しない。しかし、買い入れ方針を「20兆円をめど」などと引き下げれば、「金融緩和の手を緩めた」との見方が広がりかねず、引くに引けない状況に陥っていた。
今回、「80兆円」という数値の記述を公表文章から削除したのは、この不整合を解消する意図が強かったとみられる。また、米国の金融政策を担うFRB(連邦準備理事会)が2020年4月に無制限の資産購入に踏み買ったことで、それを追随する姿勢を演出したかった面もあるのだろう。
公表資料の記述が微妙に変わる?そこから見える日銀の狙い
ところで、2020年4月の金融政策決定会合では、政策の最優先目標が「物価」から「経済・金融の安定」に切り替わるという一つの重要な変化があった。それは声明文に記載されていた文言が、シンプルな文章に変更されたことから読み取れる。
(変更前)「政策金利については『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移する」
(変更後)「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移する」
この文言は、中央銀行(日本の場合は日銀)が将来の金融政策の方針を前もって表明する「フォワードガイダンス」と呼ばれ、短期金利の一部をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導する「イールドカーブ・コントロール政策(長短金利操作:YCC)」を継続するとの指針を明文化したものである。今回、その条件から「物価安定の目標に向けたモメンタム」に関する記述が消えたことは、金融政策と物価の関連度合いが低下したと解釈すべきである。
かつて、日銀の金融政策は「消費者物価指数の前年比上昇率が1%を下回ったら追加緩和」などといった具合に、比較的わかりやすいトリガーを示していたが、今後の金融政策を占う上で「物価」の重要度合いはさほど高くないことがうかがえるのだ。
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